梅野源治 インタビュー公開!
インタビュー
公開日:2017/11/2
「梅野源治が描く『現役ルンピニーランカー攻略』の戦略図」
文・撮影 茂田浩司 11月24日(金)、REBELS.53(東京・後楽園ホール)のメインイベントを飾るのは、梅野源治(PHOENIX)とインディトーン(ルンピニースタジアム認定ライト級9位)の激突。
2014年にWBCムエタイ世界スーパーフェザー級王座、昨年10月にラジャダムナンスタジアム認定ライト級王座を獲得した梅野が、いよいよ史上初の「ムエタイ世界3大王座」獲りへの残り一つ、ルンピニー王座に向かって第一歩を踏み出す。
「9月にスアレック選手と戦い、勝利したことで自信を持ってインディトーンという『強いヤツ』と戦える」
決戦を前に、梅野の胸中に迫った。
「負けたら引退」と覚悟を決めて臨んだスアレック戦。
9月6日、11か月ぶりのREBELSのリングで梅野源治は躍動した。「超攻撃型ムエタイ」スアレック・ルークカムイ(スタージス新宿ジム/元ラジャダムナンスタジアムフェザー級7位)は得意のパンチを打つチャンスを狙い続けたが、梅野はミドルキックで終始、距離を支配。バッティングのアクシデントに梅野が激怒してスアレックに詰め寄る場面もあり、緊迫感の中で濃密な15分間の攻防を繰り広げ、判定は3-0で梅野が完勝。
「スアレック選手とやって、パンチも見えていましたし、1発も貰わずに勝てて安心しました。やっぱり見えてる、大丈夫だ、と」
梅野にとっては、様々な葛藤や苦悩を乗り越えてのスアレック戦だった。
4月のKNOCKOUTでのロートレック戦は激闘の末に判定負け、5月のラジャダムナンスタジアムでのライト級王座初防衛戦では初回にダウンを奪われて判定負けを喫して王座陥落。このプロ初の2連敗で梅野の体はボロボロになった。
「腕が折れて、鼻が折れて、鼓膜は破れて、目を傷めてモノが二重に見える。強豪ロートレックと戦って評価を落としてしまい、ラジャではみんなで獲ったベルトも失った。僕が格闘技を始めた時の夢は『世界で一番強い男になること』なのに、5月の試合から1か月経っても、トレーナーの構えるミットに当てられなかったんです(苦笑)。このままだと自分で自分の夢をおとしめてしまうことになると思って、加藤会長に『一番強い自分になれず、最初の目標からズレてしまうなら辞めます』と伝えました」
周囲の慰留で「ここで諦めるわけにはいかない。みんなと一緒にもう1回頑張ってみよう」と思い直した時、REBELSから「スアレック戦」のオファーが届く。
「トレーナーには反対されました。『スアレックは危ない。勝てるけど、パンチを1発でも貰えばまた期間が空けなければいけない。今、パンチャーと戦う必要があるのか?』と。確かに『このタイミングでスアレックか…』という思いはありました。僕にとっては勝たなければいけない相手で、でも1発でもパンチを貰えば怪我が悪化するリスクはあるし、もちろん負けたら終わりです」
2連敗中の梅野にとって、復帰戦でのスアレックは危険すぎる相手。普通は断るところだが、梅野はオファーを受けた。
「僕は加藤会長を信頼してますし、その会長が山口代表と話し合って出した結論がスアレック戦なんです。それに、相手を選ぶなんておかしい、と思ったんです。『世界で一番強い男になる』と公言している男が相手を選ぶのはおかしいし、絶対に勝たなければいけない相手に勝てないようなら、と。それに、僕が『現役のランカーを呼んでください』というのはこっちのやりたいこと。REBELSさんにも何かメリットを残さなければいけない。だから、僕がREBELSの看板選手のスアレック選手とやって、スアレック選手が勝てば『梅野源治に勝った男』としてK-1に出たり、いろんな道が開けるじゃないですか。スアレック選手も今回の試合のためにタイに帰って練習したり、モチベーションも高い。だから、スアレック選手に負けたら僕は引退でいい。だけど、いい勝ち方が出来ればもう一度『世界で一番強い男』を目指せる」
スアレック戦は一か八かの「賭け」だったが、梅野は見事に勝った。
「正直、やる前は40%はいけるだろう、60%はどうなのか、いけるのかという思いでした。でも、スアレック選手というリスキーな相手に勝って『もう一度、世界で一番強い男を目指せる』と確信しました。もし『復帰戦だから』と弱い相手を用意して貰っていたら、僕は次の試合も『本当にやれるのか?』と不安を抱えたまま臨んでいたはずなんです。だから、モチベーションの高いスアレック選手と組んでくれた山口代表に感謝しています」
梅野自身がテクニックを解説!
「僕はどう現役のランカーを攻略しようとしているか」
梅野対スアレックは激しい攻防を繰り広げ、満員の後楽園ホールが大きく揺れた。一度のダウンもなく、KO決着でもなかったが、試合を支配し続ける梅野と、最後の1秒まで『1発』を狙い続けたスアレックの攻防が観る人の心を捉えたのだ。
梅野は「難しい試合だった」と振り返る。
「スアレック選手は『パンチとローでガンガン来る』というイメージだと思いますが、僕はポンサネーのような本当にガンガン攻めてくるタイプではなくて、スアレック選手は頭を使って、よく相手を見て打ってくるタイプだ、と考えていました。
また、対戦した前口(太尊)さんに聞くと『ローよりもミドルが効いた』という。そうなると、パンチ、ミドル、ロー、ヒジとほとんどの技が危ない、ということになる(苦笑)。しかも、今回はタイで練習してきてモチベーションも高い。間違いなく、僕が今まで見てきた以上のスアレック選手が来る。
僕には目の不安もあったので『1発も貰えない』と気をつけて戦いましたけど、気をつけすぎてパンチやヒジがあまり出なかった、という反省点があります。僕の戦い方は、ムエタイでいけば間違いなく正解です。別に下がったわけではないですし。ですけど『全局面で勝ちたい、圧倒したい』と言ってた割にはパンチをガードするばかりになって、あまりパンチを返せなかった。それはトレーナーにも試合後すぐ指摘されて、反省すべきだったと思っています」
その上で、観客の反応が良かったことを、梅野はこう分析する。
「REBELSさんに上手く煽って貰いましたよね。スアレック選手がこれまで日本人選手のトップどころをKOしたり、ダウンを奪ってきたことや、試合前にタイで合宿までしてきたことを紹介して『打倒梅野に燃えるスアレックの強打が当たれば、梅野も危ない』と煽ってくれました。
だから、お客さんも『スアレックの1発が当たるのか?』『梅野はどう戦うのか?』という見方になって、僕がミドルを蹴り続けて、スアレック選手にパンチを当てさせないことを『凄い』と評価してくれた。応援に来てくれたみなさんも喜んでくれましたし、改めて『試合の見方』を示しておくのは大事だな、と思いましたね」
スアレック戦完勝という結果を受けて、REBELSはさらなる強敵を梅野のために用意した。
ルンピニースタジアム認定ライト級9位、「空飛ぶムエタイ」インディトーンである。梅野源治、ルンピニー制覇への道がここから本格的に幕を開ける。
今回は、梅野自身に「インディトーンの特徴」や「梅野源治対インディトーンのポイント」を解説して貰った。
「インディトーンは飛び膝蹴りをよく打ってくるので『空飛ぶムエタイ』は分かりやすいキャッチコピーだと思いますね。
特徴は、とにかく体が強くて、見た目はゴツくて、ライト~スーパーライトでよくやっていますが、彼がKO負けをしたところを僕は1度も見たことがないんですよ。今、タイで11戦無敗9KOというクラップダムという選手が話題になっているんですけど、そのクラップダムともインディトーンはやっていて、判定で負けましたけどKOされてない。とにかく打たれ強いです。ローやミドルを喰らってもよろめかない、パンチも嫌がらない。組んできて、ロックする力が強く、主にミドルキックと首相撲で戦う選手です」
その相手を梅野はどう攻略しようというのか?
「もちろん、組んだ展開で負けないようにはしますけど、相手の得意なところで勝負する必要はないですからね。
REBELSで初めて僕を見る人に分かりやすく伝えておきたいんですけど、前回のスアレック選手はパンチャー。パンチャーにはミドルを蹴った方が勝ちやすいので僕はその戦法を採りました。
今回のインディトーンのような首相撲の選手には、組み際にパンチを打っていきます。その方が勝ちやすいですから。
ムエタイにはセオリーがあって、これがテクニックを駆使する選手であれば、僕はどんどん前に出て、組んでいって、相手の体力を削っていきます。
インディトーンのような『組む選手』も色々なタイプがいます。パンチを打ってそこから組む選手、ひたすら組む選手、ミドルキックをバンバン蹴ってから組む選手。タイプによって戦い方は変わってきます。相手によって「蹴り30%、パンチ40%」というように、比重を変えていきます。
僕は今回、パンチを多めに使いますが、インディトーンの出方次第でミドルキックは、ローは、ヒジは、首相撲は、と使う技の比重を変えて対応します」
ムエタイに勝つためのカギは「いかに臨機応変に戦えるか」だと梅野は考えている。
「僕は、試合前に相手の動画を見ておいて『だいたいこう戦おう』と決めておきますけど、実際にやってみないと分からない部分も大きいです。基本的に、タイ人は何でも出来ます。今回も、僕がパンチを多めに使うと、インディトーンが『じゃあミドルを蹴ろう』と試合中に作戦をチェンジしてくることがあります。それに対応して、僕も蹴りやパンチの比重を変えていく。どっちが臨機応変に変えていけるかで勝敗が変わってくるんです。
スアレック戦を経て『いける』という確信が僕にはあります。
簡単なことをやっているわけじゃないので、苦悩も挫折もありますし、ダサいところを見せてしまうかもしれないですけど、僕は世界で一番高いところを目指して、絶対に夢を掴んで『応援してくれたみんなのおかげで獲れました』と言いたいです。
今回はそのための第一歩。絶対に勝利を掴んで、世界初の『WBC、ラジャ、ルンピニー王者』へ前進します。みなさん、ぜひ会場に足を運んで、応援をよろしくお願いします」