“熱闘甲斐拳士”葵拳士郎インタビュー

インタビュー

公開日:2019/5/26

取材・撮影 茂田浩司

山梨が生んだ2冠王は、会社員との兼業ファイター。
木村“フィリップ”ミノルと同い年、デビュー日も一緒。
「今の活躍はいい刺激になってます。自分も『葵拳士郎』の名前を大きくして、いつかテレビに出てみたい」






1RKO負けの悪夢から復活し、王座防衛成功
「あんなぶざまな試合は二度と出来ない」



 5月16日、REBELS恒例の大会出場選手による公開記者会見がおこなわれた。会見後、REBELSスタッフがこぞって「きちっとしてる」「好青年」と絶賛したのが葵拳士郎だった。
 集合時間の30分前に会場入りした葵は、スタッフや会見場所となった伊原道場の伊原代表に挨拶して回り、ピシっとスーツで正装すると開始まで控え室で待機していた。
 物腰も柔らかく、さすが会社員との兼業キックボクサー、という感じ。この日も午前中は通常通り会社で業務をこなし、午後は会見に参加するためにわざわざ山梨から東京・代官山に駆け付けた。
「ずっと参戦したかったREBELSさんの大会で、日菜太選手たちを差し置いてメインイベントに選んでいただきましたし。やはり記者会見には参加しなくてはいけない、と思いまして」

 東京の選手と違って、地方で現役を続けながら、なおかつ国内トップクラスと戦ってチャンピオンベルトを獲得するためには様々な困難を乗り越えなくてはならない。葵も苦労しながらここまでキックを続け、すでにINNOVATIONとWBCムエタイ日本統一王座の2冠を獲得。今回の試合で3冠目を目指す。

 3人兄弟の末っ子。7つ上と3つ上の兄が空手をやっており、葵も5歳から空手道場に入門した。
「最初は嫌で、毎日『辞めたい、辞めたい』と思ってました(苦笑)。そのうちテレビでK-1を見て、ピーター・アーツとかが活躍しているのを見て『強くなりたい』と思って、兄は二人とも中学で空手を辞めてしまったんですけど、自分だけはずっと続けました」

 空手のジュニア大会で優勝68回、ジュニアキック18戦16勝の実績をひっさげて、高校2年、17歳になる10日前にプロデビュー。高校卒業後はプロキックボクサー、空手道場指導員、アルバイトという生活を続けた。
「アルバイトを2つ掛け持ちしながら指導と練習をする生活をしているうちに『これなら普通に働きながらキックボクシングを続けられるんじゃないか』と考えました。それで、4年前に自分の事情を理解して、受け入れてくれたアクセサリーの卸会社に就職しました」

 朝は7時起床。出社して夜6時まで仕事をし、夜7時半から10時まで練習をする生活。
「土曜日も仕事があって、完全な休みは日曜日だけですね。普段、会社ではアクセサリーを置く什器を作ってまして、大工さんみたいな作業をしてます(笑)。午後はアクセサリーを陳列したり、週2日は表に出て営業もしますし、出張で全国各地に行くことも多いです」

 キックボクサーとしての転機となった試合として、葵は昨年4月の新日本キックでの高橋亨汰(伊原道場本部。REBELS.61では「REBELSvs新日本キック対抗戦」で大谷翔司(スクランブル渋谷)と対戦)との試合を挙げる。

「高橋選手のハイキックで1RKO負けをしてしまったんです。自分がどうこうではなくて、応援に来てくれた人たちの『ああ……』という顔を見て、本当に申し訳なくて……。
 こんなぶざまな試合は二度と出来ない、と思いました。その次は昨年7月のINNOVATION王座の防衛戦が決まっていたので『これで負けたら引退だ』と決めて臨みました」

 元山祐樹(武勇会)との防衛戦は激しい打ち合いとなった。葵はパンチとキックをバランス良く当ててポイントを奪ったものの、元山のヒジを被弾し、右目を大きく腫らした。ドクターチェックも入ったが、5ラウンド終了間際に葵がバックブローでダウンを奪い、これが決定打となって判定勝利し、初防衛に成功。
「ギリギリでなんとか勝てました。自分は今まで、試合になると全体的に守る時間が多かったんですけど、あの時は『守りに入る理由』がなかったです。守りも大事ですけど『攻めないと自分は引退だ』と思うとがむしゃらでしたね。攻める時間を増やして、精神的に前向きにやれたんじゃないか、と思うんです」






戦っている時は本当に楽しいです。
超強い鈴木選手との試合でもまず自分自身が楽しみ、見てる人にも楽しい試合をして、勝って、サポートしてくれる彼女や応援してくれる人たちを笑顔にしたい



 6月9日(日)、REBELS.61のメインイベントで葵と対戦するのは、デビュー以来10連勝、そのうちKO勝ちが7という「倒し屋」の鈴木宙樹(クロスポイント吉祥寺)。公式インタビューでは早速『口撃』が。
「遠慮しないで言っていいんですか? 対戦相手の葵選手の試合を見たんですけど『全然上手くないな。これでチャンピオンなんだ』と思いましたし、自分の中ではラッキー、ぐらいに思ってます」
「葵選手は2冠王ですけど、自分は普段、8冠王のT-98(タクヤ)さんと練習してますし、強い先輩たちとバンバンやってるんで。全然、何ともないです」

 これに対して、葵はあくまで大人の対応。
「インタビューを読みました。なんか言われてましたねー(苦笑)。でも、自分は基本的にイライラしたり、人に対してムカついたりとかも全然しないので。逆に、鈴木選手がああいう風にストレートにバンと言ってくれて、練習に身が入りましたね。『こんな風に言われてるんだから練習を頑張らないとな』って」

 葵は、鈴木を「格下」とは見ていない、という。
「キャリアは全然、自分が上ですけど、格下なんて思ってなくて。いつも言っていることですけど、たとえ防衛戦でも常に挑戦者の気持ちでいるので。鈴木選手がインタビューで言ってたのも、自分はKOも少ないですし、負けも一杯あるので言われても仕方ないな、という気持ちもありますし。今回、こうやってタイトルマッチで、いきなり勢いのある活躍してる選手とやらせて貰えるんですから、嬉しいし、勝つしかないですね」

 鈴木の所属するクロスポイント吉祥寺は、格闘技ジムとして日本有数の設備と、ムエタイ、ボクシング、フィジカルの専門トレーナーが常駐する豪華スタッフ陣を誇る。
「確かに羨ましい気持ちはありますね。自分より強い人の中で揉まれるのはいいことですし。だからって負ける気は全然ないです。人には人それぞれのやり方がありますから」

 今年2月の「パンクラスレベルスリング1」で才賀紀左衛門と激闘を展開して『漢気(おとこぎ)の拳』を知らしめた浅川大立(ダイケンスリーツリー)も葵と同じ山梨県在住で「山梨だとなかなかスパーリングするのも厳しい。上のレベルになると東京に出ていく選手も多い」と嘆きつつ「練習環境に恵まれていようと自分次第。やるヤツはどんな環境でもやる」と言っていた。

 葵も、浅川と同じ考えだ。
「確かにスパーリングは難しいです。でも、対人練習は大事ですけど、相手が中学生だろうが、自分一人だろうが『練習できてない』はなくて、誰が相手でも何かしらの練習は出来るんです。だから『一緒に練習する人がいない』とか、仕事の忙しさを言い訳にしたくないですね。どんな状況でも、なんかの練習は出来ますから」

 葵が、山梨県在住で2冠王を獲れたのもそうした信念があるからだろう。
 ちなみに、K-1やKRUSHで活躍する木村“フィリップ”ミノルは、同い年で、プロデビュー日も一緒の同期だ。
「プロになりたての頃は一緒に練習していて、その頃からハードパンチャーでしたよ。今は連絡を取り合うこともあまりないですけど、チャンピオンになった時とかは『おめでとう』とメッセージを送ると、向こうからも『俺もいつも結果を気にして見てるよ』って。それは素直に嬉しいですし、同じ日にデビューした彼が活躍しているのはいい刺激になりますね」

 鈴木戦に向けたプランはすでに出来ている。
「パンチ、特に右が伸びて来るので気をつけたいですけど、蹴りも上手いですし『オールラウンダー』ですよね。全体的に気をつけて、そう簡単にはいかない選手ですけど、3ラウンド目にはきっちりと倒したいと思っています。
 自分は、これといった技もなくて、KO勝ちも少ないですけど、下がらず、どんどん前に出ていく『気持ち』はしっかりと皆さんに見ていただきたいです」

 葵は、現在、上り調子だ。
 昨年7月の初防衛成功後、怪我でブランクはあったものの、今年2月のNJKFでは琢磨(東京町田金子ジム)に判定勝利し、WBCムエタイ日本統一王座奪取に成功。その陰には、交際している彼女の献身的なサポートがあった。
「彼女は普通に働いているんですけど、自分の食事のサポートをすごいしてくれています。前回の試合の時はすごく減量が順調に行っったんです。練習や試合でも『前よりも体力がついたな』と実感しますし、体作りは食からなんだと改めて感じました。家のことも色々とやってくれて、すごく感謝しています」

 REBELSでのメインイベント出場にも「特にプレッシャーはないです」という。
「正直なところ、プレッシャーはそんなに感じていないです。自分のモットーは『楽しむこと』なんです。自分が辛い顔や暗い顔をして試合をしていると、見ているお客さんに伝わってしまって、絶対に面白くないと思うんです。
 性格的には気性が荒いわけではないですし、人を殴ってどうのこうのもないんですけど(笑)、負けず嫌いですし、戦っている時は本当に楽しいです。それプラス、勝って、みんなの笑ってる顔を見たらなおさら『やってよかった』となりますね。
 今の夢は……、テレビに出たい、というのはありますね。元々、K-1をテレビで見て憧れて格闘技をやってきましたし、今、格闘技が昔のようにだんだん盛り上がってきて、KNOCKOUTさんも結構テレビでやっていますから。ああいうイベントが出来たことは自分にもいい刺激になっていて、ずっと『いつか出たい』と思っていました。
 そのためにも『葵拳士郎』の名前をもっと大きくしていきたいですし、応援してくれる人や支えてくれる彼女のためにも、今回はREBELSのベルトに挑戦する気持ちで、超強い鈴木選手との試合を自分自身が思い切り楽しんで、見てる人も楽しませて、その上で勝ちたいと思っています。応援、よろしくお願いします」

プロフィール
葵拳士郎(あおい・けんしろう 本名 勝俣郁弥)
所  属:マイウェイジム
生年月日:1993年10月1日生まれ、25歳
出  身:山梨県富士吉田市
身  長:170cm
戦  績:2010年9月プロデビュー。31戦15勝(3KO)12敗4分。
INNOVATION&WBCムエタイ日本統一スーパーフェザー級王者

鈴木宙樹インタビュー

インタビュー

公開日:2019/5/10

取材・撮影 茂田浩司

「2冠王の葵拳士郎選手が相手でも全然問題ないです!REBELSのベルトは僕が巻きます!」
デビューから10連勝で初タイトルマッチ&メイン抜擢!
「倒し屋」ヒロキが強気な理由。

 「黄金の左ミドル」山口元気&「逆転の貴公子」高橋ナオトが「規格外の才能」と認める22歳のホープ、鈴木宙樹。
 6月9日(日)の「REBELS.61」(東京・後楽園ホール)ではREBELS 60kg級王座決定戦に出場。対戦相手はWBCムエタイ日本統一王者&INNOVATION王者の2冠王、葵拳士郎(マイウェイジム)である。鈴木にとっては初のタイトルマッチで初のメインイベント抜擢。しかも相手は格上。期待の大きさとプレッシャーにプルプル震えているかと思いきや……。
「ホント嬉しいです! REBELSのベルトはずっと欲しかったですし、メインイベントなんてチャンスですよね!」
 「よく『黙ってればイケメンなのに』と言われるんです」という鈴木が思いの丈を(遠慮せず)バンバン語った!






伝統派空手、MMA、小比類巻道場、スポーツジムインストラクターを経て、
「未経験のふりして」クロスポイント入会



 父はスペインとペルーのハーフ。母は日本人だが「辿っていくとロシアの血が入ってるみたいです」。両親は日本で知り合って結婚し、ペルーへ。
「僕はペルー生まれで、弟の千裕(ちひろ)がお腹の中にいる時に家族で日本に戻ってきたので弟は日本生まれ、僕は3歳からあきる野市で育ちました」

 「よく外国人観光客に英語で話しかけられる」というその彫りの深い顔立ちで子供の頃は嫌な思いもした。
「みんなと顔立ちが違いますからね。目がパッチリしてるんで『デメキン』とからかわれたり、肌が若干黒いんでそのことを言われたり。こういう性格なので(笑)気にしてはいなかったですけど、結構、内心は傷ついてましたねー。自分では覚えてなかったんですけど、お母さんに『目を細くしたい』って相談したこともあったそうです。
 今でも自転車に乗ってると、よくお巡りさんに『ちょっといい?』って止められるんですよ(苦笑)。免許証を持ってないんで保険証を出すんですけど『これ、君の?』って聞かれて『そうなんです、鈴木なんですよー』って説明してます(苦笑)」

 格闘技には幼い頃から親しんでいた。
「お父さんが格闘技好きで、小さい頃から一緒にK-1を見てました。4~5歳の頃に無理やり伝統派空手の道場に入れられて、それからずっと寸止めの空手をやってました。
 中3の頃に『人を殴ってみたい』と思うようになって(笑)、キックボクシングを始めたんです。高校ではUFCのリョート・マチダの試合を見て『MMAをやりたい、MMAのプロになりたい』と思うようになって、キックと同時進行でMMAもやってました。ジム主催のスパーリング大会に出たり」

 だが、MMAで頭角を現すのは3歳下の弟、千裕だった。昨年のパンクラス・ネオブラッドトーナメント・フライ級優勝の千裕は、子供の頃から身体能力や運動センスの点で兄の宙樹より遥かに上だったという。
「弟はバック転とかも普通に出来ますし、試合を見て貰えば分かると思いますけど自分より遥かに才能があるんです(苦笑)。自分は女の子にびっくりするぐらいモテなくて『喋んなきゃカッコいい』と昔から言われるんですけど(苦笑)、我慢できないんです、喋っちゃうんですよー(笑)。だから、弟は『失敗作』を見てるんで、運動神経も、モテも、全部持っていきました(笑)。
 MMAを始めた時も、弟はあっという間に強くなっちゃって。『やべえ!』と思ったんですけど自分はアマチュアのMMAの試合で勝てなくて、それが嫌でキックに行ったんです」

 空手道場のつながりで高校時代から週1で小比類巻道場に通い、高校卒業後は小比類巻道場の寮に入り、プロデビューを目指して日夜練習に明け暮れた。が、体育会系の厳しさにまったく付いていけず、数か月で挫折。

「はい、半年ももたなかったですー(苦笑)。小比類巻道場を辞めた後は、トレーニングジムでインストラクターをやってました。『もうキックボクシングは出来ない』と思ってたんですけど、弟がクロスポイント吉祥寺に通ってて『自分もやりたいな』と思って。最初は『未経験なんです~』と言って入会したんですけど、練習してたら山口会長に『プロ練に参加してみない?』と誘われまして。
 だけど、クロスポイントには小比類巻道場でお世話になった外さん(外智博・現クロスポイント大泉会長)がいて、すぐバレちゃったんです(苦笑)。ある時、会長に呼び出されて『お前、何か隠してることあるだろ?』と言われて『すみません、実は小比類巻道場にいました』って正直に全部話しました(苦笑)」

 晴れて「経験者」としてクロスポイント吉祥寺のプロ練に参加し、アマチュア大会に出場するようになったが、意外にも当初はまったく勝てなかった。

 山口会長はこう振り返る。
「宙樹はアマチュア大会で連戦連敗だったんですよ。とにかく手を出せなくて消極的な試合ばかりで、セコンドについた僕に怒られ、高橋(ナオト)さんには『アマで勝てないなんて、才能ないから辞めた方がいいよ』と言われてました(苦笑)。
 ただ僕は怒りながらも『キックは諦めないで最後まで続ける人間が勝つから続けなさい』とは話してましたね。いいものを持ってるのに、試合になると考えすぎて手が出なくて負ける。手が出るようになればバンバン勝てるようになるなと思ってたので。そうこうするうちに、試合で自分から手が出せるようになって、トーナメントに優勝して大会MVPを貰ったりして開花しましたね」






山口会長と高橋さんのおかげで、『試合の方が楽だな』と思えるんです。
葵選手も全然問題ないですよー。



 20歳でプロデビューして現在まで10連勝。そのうちKO勝ちが7つあり「REBELSきっての倒し屋」に成長中だ。
「倒せるようになったのは、山口会長と高橋さんのおかげなんです」と鈴木。
「アマチュアの時、セコンドに付いていた会長が試合の途中でいなくなっちゃったことがあるんです。試合が終わって、一度会長のいないところにサッと逃げて(苦笑)心の準備をしてから『今日はすいませんでした!』と謝ったら『お前の試合を見に来たのに、何やってんだ!』と怒られて、泣きながら帰りましたね(苦笑)。今でも会長がセコンドにいるとすごく緊張感があって『行けよ!』と言われると、バンと思い切りいけて、倒せるんです。
 この前の試合(4月20日、REBELS.60)も、1、2ラウンドはセコンドのヒデさん(炎出丸)と弟(千裕)の指示を聞いて戦ってたんですけど、3ラウンドが始まる前に会長が来て『行かないとダメだよ』と静かな口調で言われて。そこでスイッチがバン、と入って倒せました(笑)。もっと早いラウンドに来て貰えたら3ラウンドまで掛からなかったと思うんですけど……(笑)。
 本当に会長に言われると、バン、とスイッチが入るんです。怒られたくないですから(苦笑)」

 一撃で倒せるパンチは、現役時代「逆転の貴公子」として一時代を築いた高橋ナオトトレーナーに学んだ。
「高橋さんには週4、5ぐらい見て貰ってます。クロスポイント以外でもボクシングジムに連れていって貰って、福生の基地に勤務してるアメリカの人たちとスパーリングしてます。みんな体が大きくて、瞬発力とパワーがすごい人たちなので、スパーリングをしておくと試合ですごく楽なんです。
 自分、体は頑丈だと思います。『骨が硬い』とよく言われますし、拳も大きいんですよねー(笑)。昔からずっとパンチを練習してるわけじゃないんですけど、パンチ力を褒めて貰えるのも日本人にはないパワーのおかげなのかな、って。
 クロスポントだとマススパー(軽めに当てるスパーリング)が中心で、あんまりガチスパーをやらないんですよね。自分は小比類巻道場で『ガチスパーしかやらない』っていう練習でしたし、クレストとかK-1ジムはみんな『倒す練習』ですよね。マスだと気を使っちゃうので、自分は気を使わず、思いっきり殴れるガチスパーの方が面白いです。ボクシングジムでは笑いながら思いっきり殴ってますし(笑)、普段はマススパーでボコボコにされているんですけど、ガチスパーならクロスポイントの先輩たちにも負けるつもりはないですし。ただ、あんまりガチスパーはやって貰えないんです(苦笑)」

 試合で倒しまくってきた鈴木のパンチについて、山口会長はこう評する。
「拳が硬くて、パンチが本当によく伸びるんです。あの硬さと伸びは日本人にない、宙樹の身体的な特徴でしょうね。それプラス、格闘技オタクで研究熱心です。空いた時間はずっとYouTubeで試合を見て、技を研究してます。宙樹には、かつての山本元気君やラモン・デッカーみたいな、見てる人を魅了する『倒し屋』になってほしいと期待してます」

 山口会長の期待は、今回のメインイベント抜擢にも現れているが、当の本人は「メインイベントでタイトルマッチ」に特に気負う様子もない。
「メインも、タイトルマッチも、ホントに嬉しいです。会長には、会長の誕生日会で『日菜太を差し置いてメインだから頑張れ』ってサラッと言われました(笑)。チャンスですし、ずっと欲しかったREBELSのベルトなんで。
 遠慮しないで言っていいんですか? 対戦相手の葵選手の試合を見たんですけど『全然上手くないな。これでチャンピオンなんだ』と思いましたし、自分の中ではラッキー、ぐらいに思ってます。
 葵選手は2冠王ですけど、自分は普段、8冠王のT-98(タクヤ)さんと練習してますし、強い先輩たちとバンバンやってるんで。全然、何ともないです」

 鈴木にとっては、最大のライバル「弟・千裕」の存在も大いに刺激になっている。千裕は、昨年のパンクラス・ネオブラッドトーナメント・フライ級で優勝。5月26日のシュートボクシング「YOUNG CEASER CUP CENTRAL」(愛知・ホテルプラザ勝川)で立ち技デビュー(63キロ契約)が決まっている。
 山口会長は、宙樹、千裕の「スズキブラザーズ」がREBELSを変える存在になってほしい、と期待を寄せる。
「千裕も、日本人離れした体格とパンチ力の持ち主で、宙樹より血の気が多いタイプですよ。今回からキックに専念させるので、二人の倒し屋『鈴木兄弟』がREBELSを大いに盛り上げてくれるんじゃないですかね。
 宙樹にとって、今回は初めて自分より遥かにキャリアがあり、格上の葵選手との試合です。彼にとって凄くいい経験になると思いますね。もしかしたら上手くいなされてしまう可能性だってあります。ここをクリア出来るか否か、注目して見てます」

 鈴木は言う。
「自分は弟が強くなったのが嫌でMMAからキックに移ったのに、また弟がキックに来て強くなっちゃったら、次はどこに行けばいいんですかね?(笑)
 でも、自分は弟に負けるつもりはないですし、まず葵選手を倒して、ずっと欲しかったREBELSのベルトを巻きます。そうしたら今はいろんな団体があるんで、自分は会長が『行け』というリングに乗り込んで、その団体のチャンピオンをバンバン倒していきたいです。自分はずっと会長に付いていきたいと思ってるんで。
 自分の希望としては、次はREBELSのタイトルマッチなんで難しいかもしれないですけど、最初から会長にセコンドにいていただけたらなー、と。会長がセコンドにいると気持ちが全然違います。やっぱり信頼してる方なんで、会長の指示ならすんなり入って来るんです。KHAOS(現K-1 KHAOS FIGHT)の時も、会長の指示通りに攻めたら1ラウンドでポンと倒せたんで。
 前回の試合前も週4ぐらいでスパーリングしたんで、試合になると『楽だな』と思えたんです。自分は打たれずに殴るんでダメージもないですし(笑)、ボクシングジムとクロスポイントでどんどんスパーリングをして、パンチを磨いて、メインでしっかりと倒してベルトを巻きます。応援、よろしくお願いします!」

プロフィール
鈴木宙樹(すずき・ひろき)
所  属:クロスポイント吉祥寺
生年月日:1996年11月20日生まれ、22歳
出  身:東京都三鷹市
身  長:175cm
戦  績:10戦10勝(7KO)無敗。

“ニンジャ”宮越慶二郎×良太郎(レベルス王者&名参謀)インタビュー

インタビュー

公開日:2019/4/15

取材・撮影 茂田浩司

宮越慶二郎「ニンジャステップ」復活の陰に、
「トレーナー良太郎」あり。

 4月20日(土)の「REBELS.60」(東京・後楽園ホール)。メインイベントを飾るのは、NJKFと新日本キックのエース対決“ニンジャ”宮越慶二郎(拳粋会宮越道場)対“蒲田のロッキー”勝次(目黒藤本ジム)。交わる機会がないと思われていた二人が、まさかのREBELSリングでの対戦となった。
 宮越は、昨年12月のREBELS.59で「超攻撃型ムエタイ」スアレック・ルークカムイ(スタージス新宿)と激闘を繰り広げ、5ラウンドKO勝利を収めた。宮越にとって実に1年半ぶりの勝利。長い長いスランプから抜け出すきっかけは、REBELS-MUAYTHAIライト級王者にしてTeamAKATSUKI代表の良太郎(池袋BLUE DOG GYM)とのミット打ちだという。
 宮越は良太郎とのミットでどう変わったのか。そして勝次戦でどんな戦いをしようとしているのか。二人が練習している池袋BLUE DOG GYMを訪ねた。






「慶二郎のニンジャステップは唯一無二。
他のトレーナーではミットを持てないと思う」(良太郎)



 レベルス王者と指導者の二足の草鞋を履く良太郎。池袋BLUE DOG GYMと、自身で主宰するTeamAKATSUKI(千葉県鎌ケ谷市)で週3日ずつ、ミットを持っての指導と自身の練習をこなしている。
 宮越はキックボクシングフィットネス「K26 KICKBOXING CLUB」(宮越道場所沢、新所沢バンブールーム)で一般向けの指導をしながら、様々なジムで出稽古をして腕を磨いており、その1つが池袋BLUE DOG GYMだった。

宮越「良太郎さんとは最初はスパーリングをさせていただいていたんですけど、1年前に『ミットを持ってあげようか』と言っていただいたので、ぜひお願いします、と。僕は、そもそもミットを持って貰う人がいなくて、ミット打ちがほとんどできなくなってて。それ以来、週1回、BLUE DOG GYMでミットを持っていただいています」

 良太郎が声を掛けたのは理由があった。
良太郎「僕は元々ミットを持つのが好きだし、プレイヤーとしてもそうだけど、ミット持ちとしても自信があるんですよ。ただ、一流の人を持たないとレベルが上がっていかないんで、宮越慶二郎という一流の選手を持てるなら、と」

 当時、宮越はなかなか勝てずに苦しんでいた。2017年は4戦して1勝3敗。しかも3つの負けがKO負け2つとTKO負け1つ。対戦相手が強豪ばかりとはいえ、不本意な結果が続いていた。
 良太郎は、すぐに宮越のスランプの原因を見抜いた。
宮越「伸び悩んだ時、ボクシングジムに行っていたんですけど、パンチの打ち方からすべてを直されてしまって。僕も結構素直なので(苦笑)、教えられると『こっちの方がいいのかな?』と。そうしたら、良太郎さんと久しぶりにスパーリングしたら『あれ、普通になったね』と言われて(苦笑)」
良太郎「元々のステップを知ってるから、オーソドックスのワンツーばかりになってて『おいおい、どうした?』と(笑)。ボクシングジムで型にハメられてしまったんだな、と。日本人はすぐ型にハメたがるけど、宮越慶二郎といえば変則的なステップワーク(ニンジャステップ)です。これは唯一無二、他の選手では絶対に真似が出来ないんですよ。他団体になるけど、朝久兄弟なら『朝久道場のスタイル』。でも慶二郎は『宮越道場のスタイル』じゃない。お兄さん(宗一郎氏)はアップライト、オーソドックスで圧を掛けるスタイルで、慶二郎はまったく違う。慶二郎のステップワークは独立独歩で作り上げたものだから、トレーナーはそこを汲み取っていかないと独特な部分を消しちゃうんですよ」

 良太郎もミットを持ち始めた頃は、宮越の変則スタイルにどう対応するか、相当に苦労したという。
良太郎「動き方が本当に特殊です(苦笑)。最初は右構え同士のミットをやりましたけど、それだと慶二郎の持ち味が全然活かせないんで途中から『好きに動いて』って。スイッチしたい時はスイッチして、パンチ打ちたい時はパンチを打つ。型の決まったミットしか持てない人は、慶二郎の型の決まってないミットは受けれないでしょうね。日本人のトレーナーは、正直、下手なんですよ」

 実際に、宮越と良太郎のミットを見た。
 宮越は、目まぐるしくオーソドックスとサウスポーのスイッチを繰り返し、ステップの幅を変え、サイドに動き、遠めから飛び込むと相手の反撃はバックステップでかわす。
 良太郎は短く指示しながら宮越の動きに対応し、ミットを自在に操る。攻める宮越、受ける良太郎、二人の運動量が尋常ではなかった。
 宮越慶二郎の「ニンジャステップ」は、普通の選手の2倍、3倍の運動量を必要とすることが分かった。これだけ激しく動きながら、良太郎の差し出すミットに瞬時に反応し、次々とミットにパンチやキックを打ち込めるのは、反応スピードの速さと動体視力の良さを兼ね備えた宮越だから可能なのだろう。
 「豊富な運動量を誇る宮越慶二郎にしか出来ない、超変則的で、高度なテクニック」が「ニンジャステップ」の正体。この特性を理解した上で、ミットで対応できるのは、旺盛なスタミナを持ち、スピードに付いていける現役選手の良太郎だからこそ。

 良太郎のミットを目掛けて、連打を打ち込み続けた宮越。3分5ラウンドのミット打ちを終えると、さすがに肩で息をしていたが表情は晴れやかだった。
宮越「自信が付きますね。普段はスパーリングした後にこのミットをやるので『4、5ラウンドでどこまで動いて、攻められるか』をテーマにやってます。良太郎さんの短い指示にすぐ反応して攻撃を出すので頭を使うんです。頭を使うとスタミナも使うし、それを良太郎さんの動きに付いていきながらやるので、ギリギリのスタミナでどこまで動けるか。試合終盤のシミュレーションになります」






スアレック戦は想定通りのKO勝利。
「蒲田のロッキー」勝次との激闘をどう制するのか?



 宮越「最初、ジムで良太郎さんと他の選手がミット打ちをしてるのを見た時は、その速さに驚きました。どうやって打ち合わせしてるんだろう、と聞いたら、その場その場だよ、と。ただ、よく見ると僕のやっているパターンとも違うし、選手それぞれ違うんです。だから、本当に持ち手がすごいんですよね。全部合わせてくれるので」
良太郎「僕のジムの選手なら『これやれよ』と言いますけど、慶二郎とは師弟じゃないし、お互いにプレイヤーでもあるので。慶二郎最優先で『次の試合はどういくの?』と聞いて、慶二郎から『こういきます』と聞いて、そこをベースに考えて『ここはこうしたらいいんじゃないの?』と話し合いながらやってますね」

 二人が事前にイメージした通りに戦えたのが、昨年12月の「REBELS.59」スアレック・ルークカムイ戦だった。
宮越「最終ラウンドでも全然スタミナが落ちなくて、あれは良太郎さんとのミットの成果が出ましたね」
良太郎「フィニッシュブローは完璧でしたね。あれをずっと練習していたんです。プレイヤーの立場でいえば、最初からあのステップをやってよく4、5ラウンドも動けるな、と思いますよ(笑)。ただ、二人で話してたのは『3ラウンドマッチだとちょっとキツイね』と」
宮越「そうなんです。実際に、3ラウンドだとスアレック選手も全然余力が残ってて」
良太郎「29-28辺り、2-0とかで僅差だけど持っていかれたかもしれない。でも、5ラウンドなら、慶二郎が最後まであのステップが出来れば、絶対にスアレックは付いてこれない。それは分かってたんで」
宮越「本当にプラン通りでしたね」

良太郎「実は、パンチなりヒジなり、何かしらを当てたらスアレックは怒って前に出てくるよ、とも言ってました。その時に慶二郎が元気ならカウンターを打てるから、と。ただ、僕はセコンドじゃないんで『これをしろ』とは言えないんですよ。『打てるんじゃない?』(笑)。あとは本人次第です。何しろ一流の選手なので『あとはまかせた!』と(笑)」
宮越「スアレック選手の突進力は物凄かったんです。ただ、それも想像はしてて『そこをズラして、カウンターを打てれば最高だな』っていうのがあったんです」
良太郎「あそこで足を止めて打ち合うんじゃなくて、慶二郎は前に出て打ってくるスアレックのパンチを横に動いてかわしながら打てる。それは強みですよ。でもその『勝負どころ』で動けるようにするのも僕の仕事なんで。試合の2週間前のスパーが最悪の動きで『このままじゃ負けるよ』って」
宮越「言われました(苦笑)」
良太郎「でもその翌週に立て直してて、慶二郎のステップが見事で全然つかまえられないんですよ。『これは勝てるな』と思いました」

 勝次戦に向けて、宮越には期するものがある。
宮越「今回は勝たないといけない、と思ってます。この試合に勝って、やっと復活と言える、という感じです。『前回はたまたまラッキーだったんでしょ』と思ってる人も中にはいると思うんで、まぐれじゃないよ、実力だよ、と」
良太郎「慶二郎の戦績を見たら、まぐれじゃないことぐらい分かるけどね(笑)」
宮越「ずっと僕の試合を見てる人には『羅紗陀戦(2016年のNJKF年間最高試合で宮越勝利)の頃に戻った』と言われたんですけど、それは自分でも思いましたね。あの頃はイメージが良かったんで」

 宮越は「イメージ」を大事にしている。今回もすでに勝次戦勝利のイメージは描けている。
宮越「イメージは出来てます。ただ、試合前にきっちりと研究はしなくて、何となく『こう来たらこう、ああ来たらああだな』と持ってて、あとは試合をしながら考えます。1、2、3ラウンドでしっかりと見て、研究して、4、5ラウンドで仕留められたら、って」
 宮越の強みの一つが「予測不能」であること。過去の試合を研究しても、まったく違うことをする場合がある。
宮越「最近、新しいことは取り入れてなくて、練習では今までやってきたことを研ぎ澄ます作業をしてます。ただ、僕は、試合中に進化することもあるんですよ。相手に自分の未知の部分を引き出されるというか(笑)、試合中に新たなテクニックを覚えることもあるんです」
 良太郎には「宮越勝利」の道すじが見えているが、一つ、不安材料もある。
良太郎「慶二郎は、リングに上がると気性がかなり荒いんで(笑)。僕も他人のことは言えないけど、前半でパッと火が付いちゃうと何を言っても聞かないで行っちゃうと思うんで『あとはまかせた!』って感じですよ(笑)。冷静に前半を戦えれば、僕が一つ浮かんでるパターンでいけると思うんですけど」

 宮越には、この試合に勝ち、マイクで叫びたいことがある。
宮越「大みそかイベント出場です。今年は『大みそかイベントに出る』と予定を立ててるんで、大みそかに向けてのカウントダウンはもう始まっているんですよ(笑)。勝次選手との試合は、必ずいい試合、激闘になると思うんで、それで勝って、アピールしていきたいです。ぜひ、応援をよろしくお願いします!!」

プロフィール
宮越慶二郎(みやこし・けいじろう)
所  属:拳粋会宮越道場
生年月日:1990年1月28日生まれ、29歳
出  身:埼玉県所沢市
身  長:170cm
戦  績:39戦25勝(7KO)12敗2分
WBCムエタイインターナショナルライト級王者

良太郎(りょうたろう)
所  属:池袋BLUE DOG GYM。TeamAKATSUKI代表
生年月日:1988年12月21日生まれ、30歳
出  身:千葉県柏市
身  長:178cm
戦  績:26戦11勝(4KO)11敗5分
REBELS-MUAYTHAIライト級王者(防衛1回)

老沼隆斗(おいぬま・りゅうと)インタビュー

インタビュー

公開日:2019/4/11

取材・撮影 茂田浩司

二十歳の「ムエタイキラーの遺伝子」が初のムエタイ狩り!
元ムエタイ王者サンチャイTEPPENGYMと激突!
「天心選手に自分のことを覚えてほしい」

 4月20日(土)、東京・後楽園ホールで開催される「REBELS.60」に「ムエタイキラーの遺伝子」老沼隆斗(STRUGGLE)が参戦する。対戦相手は、ムエタイの元ラジャダムナンスタジアム王者にして現在TEPPEN GYMでトレーナーを務めるサンチャイ・TEPPEN GYM。
 同い年で、誕生日も1週間違いの「神童」那須川天心に対して「階級が違っても選手として負けたくない」という老沼。かねてから希望していた初タイ人との対戦が元ラジャ王者のサンチャイTEPPEN GYM。「ムエタイキラーの遺伝子」として、燃える要素満載の相手だ。
 二十歳の若きREBELS王者は大一番を前にして何を思うのか。






初タイトル奪取、そして初防衛成功。
だが「倒せるチャンスを逃してしまった」



 老沼隆斗は、6歳から正道会館で空手を始め、ジュニアで活躍した後、キックボクシングに転向。「本格的にムエタイをやりたい」と3年前にSTRUGGLEに移籍。90年代を代表するキックボクサー「ムエタイキラー」鈴木秀明会長の指導で着実に成長してきた。

 昨年2月「REBELS.54」でREBELS初参戦。この1年間の活躍ぶりは目覚ましいものがあり、REBELS-MUAYTHAIスーパーフライ級王座獲得、初防衛成功、そして今年2月の「パンクラスレベルスリング」では他団体王者をKO。今や誰もが認めるREBELS軽量級のエースとなった。
 だが、老沼本人は「まだまだです」という。

「全試合で反省点ばっかあるんで。1戦1戦、いいところと悪いところが見えてきて、今はダメなところを消す作業を中心にやっていってます。もっとバランスのいい選手になりたいですね」

 この1年間の老沼の成長の軌跡をたどってみたい。

 2018年2月から始まったREBELS-MUAYTHAIスーパーフライ級王座決定リーグ戦では、蓮沼拓矢と濱田巧に危なげなく勝利し、同年6月6日の「REBELS.56」でJIROとの全勝対決に臨んだ。
 勝者がベルトを巻く大一番は大接戦となり3Rが終わってドロー。記録上はドローながら王座決定のための特別延長ラウンドが実施され、老沼が2-1で制してプロ初のチャンピオンベルトを獲得した。

「試合は全然ダメダメでした(苦笑)。自分の欠点で、相手に付き合っちゃうんです(苦笑)。2ラウンドに右ミドルを1回効かせて、向こうの表情が一瞬変わった時にもうちょい攻め切れていれば。そこで迷いが出ちゃうとダメですね」

 軽量級ホープを4選手集めたリーグ戦で、当初から老沼は「本命」と見られていたが、そのこともプレッシャーになった。
「ベルトを獲ってからがスタートだと思っていて、通過点といえば通過点ですけど『これを落としたらヤバい』という、正直、焦りもありましたね。だからベルトを獲れた時はまず1個の目標を達成できたな、と思いました」

 2018年12月5日の「REBELS.59」では、JIROとの挑戦者決定戦に勝利した蓮沼拓矢を迎えて初防衛戦に臨んだ。
 パンチ力に定評のある蓮沼に対して、老沼はスピードと多彩な攻撃で対抗し、試合の残り10秒で左右ハイキック、前蹴り、後ろ廻し連打の「老沼ラッシュ」で会場を盛り上げて2-0の判定で初防衛に成功。格闘技やボクシングでは「ベルトを獲るより初防衛戦の方が遥かに難しい」と言われる。そのことを老沼は実感したという。

「会長に『守る方が難しいよ』と言われてて『そんなに変わらないんじゃないかな?』と思ってたんですけど、リングの上で向かい合って蓮沼選手の気合いとか覚悟が伝わってきて。自分がタイトルを獲りにいった時と同じ気持ちを相手は持ってると思うんで、そこが難しさなのかな、と。
 自分は『ベルト失ったら何も残らない』ってプレッシャーがヤバかったです。それまで失うものがなくて『どんどん当たって砕けろ!』でしたけど、それと違うプレッシャーでした。自分はこれから『REBELSの顔』になりたいんで、ベルトを失うと発言権も失ってしまうな、っていうのがあって」

 この試合も大接戦だったが、ここでも「チャンスを逃がしたこと」が反省点だという。
「2ラウンドに結構いいフックを当てた時に、倒すぐらいの勢いでいけなかったのが反省点です。そこでチャンスを逃がして、向こうは回復して尻上がりに良くなっていって。あとで会長には『2ラウンドで倒し切りたかったね』と言われました。
 初めての5ラウンドの試合で、未知な部分を意識しすぎて上手く戦おうとして、いつもの自分のリズムに持っていけなかったのも反省点です。実際に5ラウンドになった時、体力も全然残ってたんで『もっと早めに出さないと』って。それも勉強になりましたね」

 終了間際の「老沼ラッシュ」は空手時代の経験がベースとなっている。
「空手の時代は自主練で、サンドバッグを蹴ったりシャドーをしたりが多くて、左右の連打とかを遊びで蹴ったりしてました。あと、空手の試合の時も最後に大技を出して締めたりしてたので(笑)、それが体に染みついてるかもしれないです。
 4ラウンドが終わった時点で『見せ場がねえな』って。5ラウンドのどこかで絶対に派手な技を出したいと思ってて。前蹴りが当たって『いける!』と思って、そこでは倒し切るぐらいの勢いでラッシュできた感じですね」






過去2戦の反省点をふまえて、
地上波ゴールデンタイム生中継の大舞台で
「王者対決」でKO勝利!



 老沼の魅力は、ミドル1発で会場の空気を変えてしまうほどの蹴り技のキレ味や、相手にクリーンヒットを許さない抜群の防御勘、そして何よりまれにみる負けん気の強さだろう。
 普段は物静かで大人しい表情をしているが、リングに上がると表情も雰囲気も一変。負けず嫌いをむき出しにして対戦相手と対峙し、厳しい攻めで容赦なく追い込んでいく。
 その魅力が爆発したのが、今年2月17日の「PANCRASE REBELS RING.1」での森貴慎戦だった。

 蓮沼拓矢を下して初防衛に成功した老沼は、その場で2月大会出場をアピール。山口代表が快諾し、今年2月の「PANCRASE REBELS RING.1」出場が決まった。
 対戦相手の森貴慎(当時J-NETWORKバンタム級王者)とは新人の頃に対戦して老沼が勝利。互いにベルトを巻いての再戦となったが、試合前、老沼は森のインタビューを読んで「カチン、と来ていた」という。

「インタビューを読んで『これは舐められたくないな』って思いましたね。『(2年前の老沼との試合は)1週間前に急に試合が決まって準備出来てなくて負けた』みたいに言ってて『普通にやってたら勝ってた』ってニュアンスもあるかなって。それが気にくわなくて『ぜってえ倒してやろう』って思ってました。このたっぷり準備期間がある中で、再戦して倒したら文句ないだろう、と」

 老沼には、森がREBELS初参戦で地上波ゴールデンタイム生中継の舞台に立つことが納得いかなかった。
「自分はここまで来るのに苦労してきて、ベルトも獲って、アピールしてやっと出れたんで。他団体からREBELS初参戦で、本戦に出れて、テレビ中継もあるっていう。向こうに美味しいとこどりはされたくないっていうのはありましたね」

 試合は、老沼が1ラウンドからコツコツとインローを蹴り、2ラウンドから前蹴り、ミドルを散らして攻勢に。3ラウンドに反撃に出た森のパンチを受ける場面もあったが、老沼はローと前蹴りで追いつめるとヒザ蹴り連打でダウンを奪い、ミドルで2度目のダウンを奪ったところでレフェリーストップ。
「1ラウンドはちょっと緊張したのもあって行き切れなくて。2ラウンドからペースが掴めてきて、パンチも完全に見切れてて。
 3ラウンド目に向こうのフックとストレートが1回ずつ当たったんですけど、それは絶対に当たっても大丈夫な位置、クリーンヒットしない位置に頭を置いてて。拳がもう一個入ってたら倒れるだろうなっていう位置で当てさせてから攻めたんです」

 KO率7割を誇る強打の森に対して、すべて避けず「当たってもダメージのない位置」であえて受けて、反撃でダメージを与える。「ムエタイキラー」鈴木会長から伝授された高度なテクニックを、さらに老沼が自分でアレンジしたものだった。

「会長に『この位置なら相手の攻撃は当たらない』という位置を教わってて、その位置を頭に入れておきながら、自分でも考えてアレンジして攻めましたね。試合前は『相手の攻撃が完璧に当たらない位置』にどう入るか。そこに入るステップ、足の位置、距離を会長に何度も何度も合わせて貰ってて。本当は、1発も当てさせないで倒すつもりだったんですけど、ちょっと攻め過ぎた時に貰っちゃったかな、と」

 老沼のKO勝利は、TOKYO MX2とエムキャス、UFC FIGHT PASSで生中継された。
「みんなMXで見てくれたり『録画して後で見たよ』とか言われて、影響力あるなと思いましたし、嬉しかったですね(笑)。計量の会場もいつもと違う場所でやる気が出ましたし。試合の中継がない時ももちろん頑張るんですけど、中継があるともっと頑張れますね(笑)」

 試合後、老沼はマイクで「REBELSのチャンピオンが強いと見せられたので、次、タイ人どうですかね?」とアピール。
「タイ人とやるのはずっと目標だったのでここで言わなきゃ、と(笑)。会長にはマイクとかは何も相談してないです。『自分のやりたようにやったらいいよ。自分がなりたい選手になった方がいいよ』と言われてます」

 着実に進化して、もうワンランク、ツーランク上の相手に挑む絶好のタイミングに、山口代表がマッチメイクしたのが4月20日(日)、後楽園ホールで対戦する元ラジャダムナンスタジアム王者、サンチャイ・TEPPEN GYMである。






サンチャイ選手を倒して、もっと強いタイ人と戦いたいし、
天心選手に自分のことを覚えて貰いたい



 老沼は車のディーラーでアルバイトをしながら練習と試合をこなす生活をしていたが、近々、転職することが決まっている。
「今度も車の運転です。今、実家から押上のSTRUGGLEに通っているんですけど、もっとジムの近くに住んで練習環境を良くしたいんです。ただ、押上は結構家賃が高くなってて(苦笑)。だから、今年は一杯試合をして、貯金して、来年には一人暮らしが出来ればいいなと思ってます。
 今度の仕事は、朝から夕方まで働いて、土日祝日が休みになるんです。ディーラーで働いている時は土日も祝日も働いていたので、そこが休みになると気持ちは楽になりますね。
 自分のことをもっとたくさんの人に知って貰いたいですし、ファイトマネーも、スポンサーも増やしていきたいです。チャンピオンになって、友達の友達で直接知らない子に声を掛けられたり、自分の知り合いが誰かに話して『ああ、その子知ってるよ』って言われたという話も結構聞きました。自分の知らないところで知られてきたんだな、っていうのはありますね。
 ツイッターのフォロワーもちょっと増えてきました。『年末までにフォロワー1000人は越えたい』とつぶやいたら結構増えて、2月の試合が終わってからまた増えてて。自分を知って貰うためのプロモーションも、もうちょい行動していきたいですね」

 「老沼隆斗」をもっと知って貰いたい、と考えた時に、新たな悩みも。
「自分はこれといったキャラクターがないんです(苦笑)。先輩の松崎(公則)さんとも話したんですけど『記者会見とかで何か目立つヤツはないかな?』って(笑)。でも、何かキャラクターを作るとなったら一本突き抜けないといけないんで難しいな、って。
 自分は『ムエタイキラーの遺伝子』がちょうど空いててよかったですけど(笑)。ただ、調べてみたら98年生まれのキックボクサーが本当に多いんですよね。クラッシュの篠原(悠人)選手とかRISEの篠塚(辰樹)選手もそうで、多いなーと思って」

 1998年生まれは「キック界の黄金世代」。石井一成、平本蓮、そして、やはり代表格は那須川天心である。
 老沼と那須川は、誕生日が1週間違い、空手を始めた時期もほぼ一緒。どうしても意識せざるを得ない。

「大みそかのメイウェザー戦は、出掛けてて車の中でちょっと見て、後で見ましたけどすごいなって思いました。いま自分のいる位置と比べると悔しいですね。同い年で、メイウェザーと向かい合ったという事実だけでとんでもないなって。ただでさえ自分の届かない位置にいるのに、さらに遠くに行っちゃった感じですね。
 3月のRISEの試合も、練習した技を試合でスッと出せるのがやっぱりすごいですね。あの大一番で、あのタイミングで、あの技をよく出せるな、と思いますね。
 だけど、選手として負けたくないという気持ちはありますね。その気持ちがなかったら終わりだろう、と。自分は階級が違ってもどの選手にも負けたくない。試合のインパクトとか、見てる人の印象に残るような、そういうところでは絶対に負けたくないと思います」

 次の対戦相手、サンチャイ・TEPPENGYMは、元ムエタイ王者にして、現在はTEPPENGYMのトレーナー。待望の対タイ人であるばかりでなく「天心のトレーナー」という部分でも、老沼にとって闘志を掻き立てられるところだ。
「タイミングがよかったですね(笑)。正直、タイ人一発目の相手としてはやばい相手だなって思います。ランカークラスとかじゃなくてビッグネームじゃないですか。現役時代の映像を調べてみたらめちゃめちゃ強いな、っていう印象があって。一度ラジャを取った選手というのは燃えますし、試合が出来るのは光栄です」

 鈴木会長からは、すでに攻略法を伝授されている。
「会長には『今の実力だったら全然勝てる』と言われました。会長と相手の穴とかを話してて、作戦も練っているんで。
 でも結局のところ、自分の実力、自分の動きを出して、自分の距離で戦えば、圧倒できる練習をしてるので。試合の展開を作っていく中で、うまく出せればなと思ってます。ここで負けたら『ムエタイキラー』のイメージがなくなっちゃうし、自分はこれからもっと強いタイ人とやっていきたいので。一発目はしっかりと勝ちたいです。
 対戦が決まってすぐの時は、正直、ちょっと怖さもあったりしたんですけど。練習をしていきながら、相手の映像を見たりしていると『タイ人も同じ人間だから変わらないんじゃないか』と思うようになりました。会長が言ってたのは『日本人でタイ人に勝ってる選手は、相手がタイ人だからとか意識しない』と。だからいつも通り、意識しすぎずに自分の実力で倒したいと思ってます。
 REBELSのチャンピオンとして絶対に負けられないですし、これ、セコンドに天心選手が付いてくれたら美味しいですね(笑)。絵的にもいいと思うんですけど(笑)。
 天心選手とは面識はなくて、向こうは『誰だお前』みたいな感じだと思うんですけど、サンチャイ選手を倒して、天心選手に自分のことを覚えてもらえればいいかなって思ってます」

プロフィール
老沼隆斗(おいぬま・りゅうと)
所  属:STRUGGLE
生年月日:1998年8月11日生まれ、20歳
出  身:東京都足立区
身  長:161cm
戦  績:13戦10勝(5KO)2敗1分
REBELS-MUAYTHAIスーパーフライ級王者(防衛1回)

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