REBELSオフィシャル 浜本“キャット”雄大インタビュー
インタビュー
公開日:2017/12/20
文・撮影:茂田浩司「笑う人は笑っていればいい。僕はREBELSとラウェイの誇りを背負い、天心選手を倒します」
RIZINキックボクシングトーナメント(12月31日、さいたまスーパーアリーナ)の1回戦で「神童」那須川天心と対戦する浜本“キャット”雄大(クロスポイント大泉)。
世間的にはまったく無名の存在ながら、REBELSの山口元気代表は、浜本“キャット”雄大を自信を持ってRIZINのリングに送り込んだ。
「相手はあの天心君ですけど、キャットは天心君に勝てる可能性を持ってると思います。体が強くて、ディフェンス技術が高く、クロスポイント大泉の外智博会長に預けてから打ち合って勝てる気持ちの強さも身につけた。何より、本人が昔から『天心とやりたい、天心とやりたい』と言い続けてましたから。モチベーションがもの凄く高いですよ」
天心戦が発表されると、さっそくネット上では「浜本キャットって誰?」「ラウェイ王者というけど1勝しかしてないじゃないか」等々、キャットの実力を疑問視する声があふれたが、キャット自身は全く意に介さない。
「新しいことをしようとすれば、みんな笑って『こんなの出来ないよ』と言う。だけど、僕はみんながやりたがらない相手、やりたがらない試合に勝ってきて今がある。僕には天心選手を倒せる可能性があるし、倒す自信もあります」
この強い自信はどこから来るのか。
浜本“キャット”雄大と、マンツーマンでキャットを鍛え上げた外智博会長に、東京・大泉学園駅そばのクロスポイント大泉でインタビューした。
明大キックボクシング部のガチスパーで、生き残るためにディフェンス技術を磨いた。
浜本“キャット”雄大、1990年2月14日、東京都出身。
中学は「テニスの王子様が流行ってたから」ソフトテニス部に入部するもグラウンドが狭く、2年生まで球拾いと聞いて「意味がない、と思って辞めて帰宅部です」。
高校では野球部に入ったが「毎日練習に行くのが耐えられなくて、週1で行ってたらほぼ勘当みたいな感じで怒られて(苦笑)。背番号が欲しくて高3は真面目に練習して背番号を貰いました。だから本格的な運動経験はほとんどありません」
明治大学付属明治高校から明治大学政治経済学部経済学科に進学し、友人から「ダイエット目的でやらない?」と誘われてキックボクシング部に入部。これがキャットの人生の転機となる。
「初日で楽しくなっちゃって(笑)。その日から『最強への道』という日記を付け始めて、格闘技オタクだったんで『構えは武田幸三、戦い方はキシェンコ』とか、自分の理想的なファイター像を書いたり『今日はこういうことをやった』とその日の練習内容を書いておくんです。これは今も続けています」
練習は厳しいものだった。20人が入部し、最終的に残ったのはキャット一人だった。
「上級生が体の大きな先輩ばかりで、その人たちとガチスパーなんです。だからみんなすぐに強くなりますけど『恐い』って辞めちゃうんです。
僕は、毎日、毎秒『どうやって生き抜くか?』を考えながら、多少貰っても倒れないぐらいタフだったんで、先輩たちの攻撃に耐えているうちにディフェンスの技術だけがどんどん上達していきました」
キャットは体が強く、ほとんど怪我をしない。その理由をキャット自身はこう分析している。
「親の教育のおかげだと思います。僕、生まれてからまだカップラーメンを食べたことがなくて、冷凍食品も体が出来るまではダメ、コーヒーとかのカフェイン類もそんなに飲んだらダメ、と食生活には相当気をつかって育てられたんですよ」
まるでジュニアアスリートを育てる食事だが、実際のキャットは何か習い事をさせられるわけでもなかった。そこは「浜本家」独特の教育方針があった。
「僕が何かをやりたいといえばやらせたけど、何もやりたいことがなかったから、と。ウチの家庭の思考は『とりあえずいい大学に行け、とりあえず勉強しろ、とりあえずいい企業に入れ。そうすればやりたいことができた時につぶしが効く』。僕が明治に入ったのも、運動したいと思えばやれるし、いい企業にも頑張れば入れるかもしれないし。で、僕は卒業してそのまま大手の会社に入ったんですけど、それも将来転職したくなっても大手なら転職しやすいだろう、と考えたからです」
2017年はラウェイ、ダウサコン、KOUMA
「誰もやりたがらない試合」に挑み、実力を伸ばした
現在27歳のキャット。サラリーマンとファイターの「二刀流」の生活を6年間続けている。
毎朝7時40分に起きて、家を8時半に出て、会社は5時半が定時で6時には出て、そのままジムに直行。2、3時間練習して帰宅。土曜日はプロ選手の多いクロスポイント吉祥寺に出稽古に行く。
「週6で練習ができてて、今、すごくいい環境で充実しています。『専業でやれば?』と言われるんですけど、今の環境が一番いいです。専業だとメンタルの逃げ場が無くなってしまうので。
専業の人をディスるわけじゃないですけど、プロ選手を見てると、試合が流れたり、自分が怪我をした時にストレスを持ち過ぎてる。あと、対戦相手選びですよね。負けたらダメだから『この相手は嫌です』とか、強くなって、名前が売れてくればくるほど選り好みするようになってしまう。それではダメだと思うんで。僕はどんどん挑戦したいんですよ」
キャットは2010年にプロデビュー。戦績は悪くなかったが、選手としての評価は高いとは言えなかった。
山口代表「厳しいことを言えば自己満足の試合ですよ。『ほら、僕のディフェンス、上手いでしょ?』と。いやいや、お客さんは君のディフェンス技術を観に来てるわけじゃないから」
「僕は攻める癖があまりなくて(苦笑)。デビュー戦の時、自分よりも弱い相手とやるのは初めてで、全部の攻撃をさばき切って、カウンターを合わせて効かせた時、僕は攻め方が分からなかったんです。『なんで相手は下がるんだろう? 下がった相手はどう攻めるんだっけ?』と。でも、それはいい部分もあって、僕は攻めている時も、行き過ぎて相手にカウンターを合わされることはほぼないです。攻撃中も常にディフェンスを意識してるので」
慎重すぎる試合運びが直らないキャットを、もどかしい気持ちで見ていた山口代表。そんな時「4月のラウェイに出る選手はいませんか?」というオファーが舞い込む。頭突きあり、ヒジ打ちあり、グローブなしでバンテージのみ。判定はなく、KOしなければどんなに優勢に試合を運んでも引き分けという「世界で最も過激なルール」のラウェイに「キャットを出そう」と決めた。
山口代表「上手いんだけど、勝負どころで詰められないから、評価が上がらない。ラウェイはいくら技術を見せても『男と男の勝負』をして、倒さなければ勝てない。そんなリングで倒して勝てば『キャットという強い選手がいる』とアピールできる。彼自身がもう一皮剥けて、お客さんを呼べるプロの試合が出来るようになるために、ラウェイが一番いいと思ったんです」
「山口さんに『キャットやるか?』と言われて、1日考えてこれはチャンスだと思って『やります』と言いました。
キックボクシングとは感覚が違いました。拳にバンテージを巻いた時、オープンフィンガーグローブぐらいの厚みに巻いても、水を含むと硬くなりますし、段々拳の形に小さくなっていくんです。
相手のミャンマー人も、頑丈でした。倒す感覚のパンチが何発も入って、ハイキックも入ったんですけど倒れなかった」
YouTubeにも上がっているが、この試合中、山口代表は「倒せるのに倒しにいかない」と激怒し、控え室に戻ってしまった。
「試合後も山口代表の怒りは収まらなくて『次の6月も出すから。せめて玉砕して負けてこい!』と言われました(苦笑)。僕は『手も痛いから嫌です』と言ったんですけど『いや、出ろ!』と」
山口代表「キャットはパワーも技術もあって、あとは『前に出て倒す気持ち』だけだったので。倒さないと勝てないラウェイならその気持ちを作るのに一番いいので、外会長にキャットを預けて、6月の試合にもう一度出そう、と」
キャットはクロスポイント吉祥寺から大泉に移籍し、外会長のマンツーマン指導を受けるようになった。外会長は、すぐ山口代表の意図が分かったという。
外会長「体が強くて、技術もあり、考える力も十分にあるので試合前は自分で対策を立てたり『こういう風にやりたい』という意志もある。彼に足りないのは『ハート』の面なので、僕はそこを徹底的に鍛えました」
「外さんは『語らずに熱い人』ですね。いろんな凄い選手たちのミットを持ってきているのに、そういう名前を出して『あの選手はこうしてた』とかは言わず、一人の選手として僕に向き合ってくれました。
僕は練習中『ここを抜かないとキツいぞ』と思うと抜くクセがついていて。外さんはそういうのを分かってて、強引に引っ張るんですよ。『ここ来いよ! お前ふざけんな!』って、自分が嗚咽が出るぐらい怒られるんです(苦笑)。たまに『なんでこんなに怒られるんだ?』とカッとなることもあるんですけど、それも外さんの手。外さんとの練習で心のスタミナが上がりました。精神的に強くなったな、と思います」
クロスポイント大泉で「覚醒した暴走猫」浜本“キャット”雄大が誕生した。
6月16日の「ラウェイinジャパン4 FRONTIER」(TDCホール)でヤー・ザー(ミャンマー)をKOし、ILFJラウェイにおける日本人初勝利。勝利者ベルトが贈呈された。
9月6日のREBELS.52では強豪ダウサコン・モータッサイ(タイ)と対戦し、判定負け。
11月26日のM-ONEでは、WPMF日本スーパーバンタム級王者KOUMA(WSR)に挑戦し、激しい打ち合いを制して判定勝ち。WPMF日本スーパーバンタム級王座を奪取することに成功した。
外会長「KOUMA戦は驚きました。あんなに打ち合えるんだ、と。それはラウェイという大会を経験したことが良かったと思いますし、キャットをラウェイに出した山口代表が凄いなと思います。
以前のキャットは、ところどころに弱さが見えましたし、日によっても激しい波がありました。そこを僕は変えたいと思いましたし、変わればキャットの持つ潜在能力はもっと試合で出せる、という確信があって、今は本当に変わりましたね。
嬉しかったのは、KOUMA選手との試合でかなり打ち合ったんですけど、1週間も経たないうちに練習を再開したことです。練習の姿勢も良くて、よく考えて練習をするので、この半年間ですごく伸びたと思います。特にメンタルは強くなりましたね」
キャット自身、ここ最近の自分の成長を実感している。
「僕はREBELSが出来る前からキックをやってて、その時はめちゃめちゃ強い相手とは組まれなくて。優しいマッチメイクだったんです。
でも、REBELSになったら急に格上とばかり組まれるようになって、今年は特にそうですよね。ラウェイも、ダウサコンも、KOUMA選手も。普通、みんなやりたくない相手ばかりですし、実際にやったらもの凄く強かったです(苦笑)。
特に、KOUMA選手との試合は意地になってた部分があります。みんな『KOUMAはパワーと気合いが凄い。普通じゃ考えられない』とか言うんですよ。僕には訳が分からない。僕はKOUMA選手はこう来るなと分かってるし、技も持ってる。今まで積み上げた格闘技理論もあるんです。
で、その3つがKOUMA選手の気合いとパワーに負けるぐらいならもう格闘技はやめるべきだ、と思ったんです。それぐらい自分に気合いとパワーがないならこの先もずっと壁にぶつかると思ったんで。なので、意地になって打ち合って、ほら、負けなかっただろ、と(笑)。結果的にトントンの試合で(笑)、初めて試合で顔が腫れましたけど」
KOUMAとの激闘の3日後、願ってもないチャンスが訪れる。
「RIZINが那須川天心の対戦相手を公募した」
山口代表の「キャット行け!」という指令に、キャットと外会長はすぐさま「行きます」と返答した。
「RIZINのレギュラーになって、天心選手とはMMAルールでもラウェイルールでもやりたい」(キャット)
「天心選手のスピードと距離を実際に知ってるのは大きい。負けるつもりはないです」(外会長)
「対戦相手公募」には様々な選手が応募したが、浜本“キャット”雄大が選ばれた。決め手は「ラウェイ王者」の肩書きだろう。これでキック、ラウェイ、ボクシング、MMAの各代表が集う、異種格闘技トーナメントが成立した。
誰が見ても「那須川天心のためのトーナメント」だが、REBELS陣営は「かませ犬」で終わるつもりはない。
キャットと同様、いや、もしかしたらキャット以上に気合いが入っているのが外会長である。
外会長は、様々なジムで日本のトップファイターのミットを持ってきた。その指導キャリアの豊富さは日本屈指。武田幸三、小比類巻貴之、一戸総太、野杁正明、小澤海斗ら、ミットを持ってきた選手の名前を挙げればキリがないが、注目すべきはそうした選手たちの中に「那須川天心」がいることだ。外会長は今年3月までTARGETで天心のミットを持っていたのである。
外会長「天心選手のミットは毎回ではなかったですけど持っていました。天心選手の攻撃を自分のミットで受けて、スピードも感じて、距離も感じて、それを肌で知っているのは大きいのかな、と思っています。
キャットが『天心選手とやりたい』とアピールし続けてきたことは知ってましたし、現役なら『トップ選手とやりたい』と思うのは当然のこと。僕も、ラジャダムナンスタジアムのチャンピオンとの試合も、小林聡さんとの試合も『やらないか』という話が来た時に即決で『やります』と答えてやりました。トップ選手がどこまで強いのか、実際にやってみたいと思ったんです。
今回、僕らは天心選手に挑戦はするんですけど、僕は負けるつもりはまったくないです。本当に穴のない選手だと分かっているんですけど、やるからには勝つための準備をして臨みます。自分の頭の中でイメージは出来ていて、それはキャットにも伝えてあります。あとはキャットがどれだけ頑張れるか。浜本“キャット”雄大という選手が持つ才能、能力をフルに使って、みんなをあっと言わせます」
キャットもこの大一番に向けて燃えている。
「REBELSではずっと厳しいマッチメイクでした。1度連敗した時は『死んだ方がいいな』と思うぐらいへこんだんですけど、みんなには『あの苦しみがあったから今があるんだよ』と言って貰えてますね。
なので、REBELSを背負う気持ちはありますし、ラウェイの誇りも凄く強いです。ラウェイの選手は『殺す、死ね』は使ってはいけないと言われてるので、そういう言葉はなるべく使わないようにしてますし。
ラウェイの『タイム』のルール(試合中に一度、2分間のインターバルを取ることができる)なんて、倒した方も倒された方もお互いに地獄です(苦笑)。一度倒してもダメージを回復されて再開ですし、倒された方だって一度交通事故に遭って『少し休んだらもう一度』ということですからね。
そんな過酷なリングだからこそ、リングに上がること自体が凄いことなので、対戦相手をリスペクトして、引き分けならお互い勝者だから称え合おう、というのがラウェイです。そういう過酷な試合を経験しなければ、RIZINで天心選手との試合も組まれなかったわけですし、山口代表の先見の明があったな、と思います。
55キロのトップは天心選手ですから、ずっと『天心とやりたい』とアピールしてきましたし、大みそか格闘技イベントにも『いつか出たい』と思ってましたし、出る気でいましたけど、このタイミングか、という感じです。
今、会社の方でも色々と動いてくれています。ベルトを獲り、今回のRIZIN出場も喜んでくれて、やはり結果がすべてですね。
今のところ「社名は出してはダメ」と言われてます。急にガーっと進んだので、僕の活躍は総務、法務、広報まで行き渡ってなかったんですよ。チャンピオンになったことは知ってるんですけど、こうしてインタビューを受けたり、試合がYouTubeに上がるまで想定してなくて。大みそかの、地上波ゴールデンタイム中継に出たら広告効果も大きいですし、副業申請も出しています。トーナメントに優勝したら300万円ですから(笑)。
天心戦の対策は練っていますし、イメージはしているんですけど『こういう展開になる』と強くは想定してないです。軽く2、3パターン考えて、相手が違う動きをしてきた時のパターンもあるだろうな、と。
今、描いている画は、RIZINでレギュラーで呼んでもらえるようになることです。天心選手とは2回、3回とやる。MMAルールでも、ラウェイルールでもやって、物語にしたいです。
笑う人は笑っていればいいと思うんです。何か新しいことをしようとすれば、絶対にみんな笑って『そんなの出来ないよ』という。
僕は、人生は高い目標を持って、高い位置を目指し続けるのが絶対に大事だと思っていて。僕は、みんながやりたがらない天心選手とやれるものを持っていますし、倒せる可能性がある。その可能性に掛けて、大みそか、RIZINのリングで天心選手に挑戦して、倒します」