「橋本道場vsREBELS」インタビュー第1弾 小笠原裕典

インタビュー

公開日:2018/2/14

聞き手・撮影 茂田浩司

“キック界のプリンス”が描く未来図
「弟・瑛作に負けていられない。55㎏のもっと上を目指す」

 2月18日(日)、東京・後楽園ホールで開催される「REBELS.54」。セミファイナルには「橋本道場vsREBELS」として、宮元啓介(橋本道場)vs小笠原裕典(クロスポイント吉祥寺)、橋本悟(橋本道場)vs潘隆成(クロスポイント吉祥寺)がマッチメイクされた。
 REBELSの山口代表は「宮元選手と橋本選手は絶対に下がらない。二人の気合いと根性に対して、裕典と潘がどう立ち向かうか。それが見たくて組んだカード」という。  55㎏の小笠原裕典、スーパーライト級(63㎏)の潘は、トップ戦線浮上を狙うだけに絶対に落とせない1戦。この試合に賭ける二人の思いとは?
 まず第一弾、小笠原裕典インタビューをお届けする。






「キックボクシングがやりたくて、カナダから帰ってきました」



 キック界きってのイケメンは、自身のインスタグラム(Yuki Ogasawara (@yukiogswr)・Instagram)もお洒落だ。モノクロ写真が多く、構図も凝っている。
「友達が洋服を送ってきて『これを着て、写真を撮って送ってくれ』って言われるんですよ」
 そう言って照れる小笠原裕典。彼のお洒落インスタを見て、クロスポイントに外国人女性が見学に来て、入会するという事態も起きている。
 高校時代にカナダへ留学し、英語は堪能。大学進学も考えていたが、日本に戻ってきた。すべてはキックボクシングをやるためだ。
「強さへの憧れは前からありました。でもどっかに弱い自分もいて『恐さ』もあって。中学では普通に部活でバスケをやってたんですけど、瑛作がキックを始めててそれも気になってて」
 3歳下の瑛作の後を追うように、中学3年の時にクロスポイント吉祥寺で少し練習をした。すると山口代表から「アマチュアの試合に出てみろ」と薦められた。
「キックを始めてまだ2か月だったんですけど、代表に『カナダに行く前に思い出作りで出ろよ!』と半ば強引に出されて(苦笑)。カミナリモンに出て、その時はあっさりと勝ったんです」
 山口代表はこう述懐する。
「裕典は少し練習しただけでパンチが重くて驚いたんです。瑛作はコツコツと積み上げる努力型ですけど、兄貴の裕典はセンスがあったんです」
 転機はカナダで訪れる。カナダでもアマチュアの試合に出て、その試合で初めて敗北を味わった。「1度勝つまでやめられないな」と練習にのめり込み、次の試合で勝つ。
「初めて負けた時は『こんなに悔しいのか』と思いました。カナダはアマチュアの試合も自分の入場曲を掛けて入場して、観客もレベルの低い試合でもすごく盛り上がる。その中で負けてしまったので悔しくて仕方なくて、勝ったら気持ちよくて『もっと、もっと』と(笑)。もし、カナダでも試合にあっさりと勝っていたら、ここまでキックにのめり込まなかったと思います」
 夏休みになると日本に帰国し、クロスポイント吉祥寺で練習に励んだ。
「学業よりキックボクシングに夢中で、高校3年になると『キックを本気でやりたい』と思って、大学に行くつもりもなくて。YouTubeでK-1の試合を見て『ああいう舞台で戦うのはカッコイイな』と。
 本当は海外生活が好きで、将来は海外で生活したいと思っているんですけど、今、日本にいるのはキックボクシングがやりたいからなんです」
 18歳で帰国すると、家業を手伝いながらクロスポイント吉祥寺で練習に励み、2012年、19歳でプロデビュー。翌13年には「REBELS NEW RAIDERS TOURNAMENT 55kg級」で優勝。裕典にとってこの優勝は大きな意味を持つものだった。
「実は『REBELSの新人王を取れなかったら辞めよう』と思ってました。これが今後、将来を左右する試合だなと感じてて。その試合で勝って、新人王を獲って『ここからは格上の選手とやっていくんだ』と覚悟が決まったんです。それまでは『あまり強い選手とはやりたくない』とかありましたけど(苦笑)、今はトップに行くためなら、どんな選手ともやりますし、どんどん強い選手とやりたいです」






弟・瑛作が同じ55㎏に来て「負けられない」と思った。



 山口代表は言う。
「裕典はここ1、2年で本当に伸びました。以前は、試合をしてても自信なさげだったのが、昨年、INOVATIONスーパーバンタム級のベルトを獲り、フィジカルトレーニングの成果で体も強くなった」

 裕典が急成長したのは、弟の瑛作の存在が大きい。一昨年から瑛作が階級を上げて、同じ55kgになったことで兄弟は直接的なライバルとなった。
「自分の感覚では、ずっと瑛作のことを追いかけている感じです。キックを先に始めて、プロデビューしたのも瑛作が先ですし、KNOCK OUTで活躍しているのも刺激になっています。練習では、ずっと瑛作にボコボコにされているんですよ(苦笑)。瑛作は僕の弱点を知り尽くしていて『やっと瑛作の弱点を掴んだ』と思っても、瑛作はもっと進化してくるのでなかなかその差が縮まらないです。マススパーでも僕に対しては全然遠慮がなくて(苦笑)、瑛作とやると痛いですよ。
 以前は、兄弟というよりもクロスポイントの仲の良いチームメイトの一人で、他のみんなと同じで『勝てば嬉しい、負ければ悔しい』でしたけど、瑛作が同じ階級になってからはもっと感情的になるようになりましたね。やっぱり『負けていられない』という燃え上がるような気持ちがあります」
 同じ階級になれば、兄弟で同じ相手と戦うケースも出てくる。今回の宮元啓介は瑛作が3RKO勝利しており(2016年12月、KNOCK OUT)、当然、裕典はその比較をされるが、以前にも同じケースがあった。
 波賀宙也との試合で、瑛作は2RKO勝ち(17年2月)、裕典は4RTKO勝ち(17年6月)を収めた。
「波賀選手との試合は正直、やりづらかったです。瑛作がヒジでカットしてあっさりと勝った相手なので、嫌だな、と。ただ、同じぐらい楽しみな気持ちもあって、試合になると楽しみな気持ちが上回りました。今回の宮元選手との試合も、比較されるとは思いますけど、楽しみな気持ちが強いです。『勝って当たり前でしょ』と言われる相手よりも『調子が上がっている』という選手とやる方がやりがいがありますし。
 宮元選手はキャリアがありますし、足とかお腹とか『痛い』では倒れないと思うので、ヒジでカットするか、意識を飛ばすしか倒せないと思うので、そこに持っていけるように。
 今まではパンチに自信があって、パンチだけに偏ってしまったり、バランスが崩れた時期もあったんですけど、今はいろんな攻撃を、バランス取れて出来るようになりました」
 裕典を支えるのは「クロスポイント吉祥寺でいつもボコボコにされてきた」という、ハードな練習に耐えてきた自信だ。
「瑛作もそうですけど、不可思さん、T-98(タクヤ)さん、日菜太さんにもいつもボコボコにされているんです。ミットでは『動けるようになってきた』と思いますけど、マスやスパーをやるとこういう環境なのでなかなか自信はつかないです(苦笑)だけど、その分、試合をすると『楽だな』と思うんです。
 今年はもっと大きな舞台に出たいですし、そこで活躍して、お世話になっているジムや、ずっと応援してくれている親にも恩返しがしたいです。そういう気持ちも、キックにのめり込んでいる要素ですね。
 そのためにも、宮元選手との試合が大事だと思ってます。ここで魅せるか、魅せないかで大きく変わってくると思うんで。だからって気負いもないです。試合当日の自分を信じてるんで。
 毎日、自分の出来ることをやってきたんで、自分の進化した姿を見せます」






プロフィール
小笠原 裕典(おがさわら・ゆきのり)
所  属:クロスポイント吉祥寺
生年月日:1992年4月17日生まれ
出  身:東京都
身  長:178cm
戦  績:21戦14勝(3KO)4敗3分
タイトル:WBCムエタイ日本統一スーパーバンタム級王者

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