6.6 REBELS.56インタビュー
インタビュー
公開日:2018/5/25 3
聞き手・撮影 茂田浩司ウィラサクレックの貴公子が
「KO」に目覚めた瞬間
6月6日(水)、「REBELS.56」(後楽園ホール)のセミファイナルで注目の好カードが実現した。
「超攻撃型ムエタイ」スアレック・ルークカムイ(スタージス新宿ジム)が保持するREBELS-MUAYTHAIスーパーライト級王座に「ウィラサクレックの貴公子」杉本卓也(ウィラサクレック・フェアテックスジム)が挑戦するのだ。
あの「日本ムエタイ界の至宝」梅野源治をして「スアレック選手はパンチ、蹴り、ヒジ等、すべての攻撃が重い」と言わしめる王者スアレック。日本人選手では、なかなか「スアレックとやりたい」と申し出る選手も少ないが、今回のスアレック戦は杉本がREBELSの山口代表に強く希望して実現したものだ。
なぜ、杉本はスアレック戦にこだわったのか。ウィラサクレック・フェアテックスジムでその心境を明かした。
中学1年生でウィラサクレック入門
「面白くて、ハマりましたね」
写真撮影を終え、ではインタビューを、というと、杉本に案内されたのはウィラサクレック・フェアテックスジム本部(東京・三ノ輪)の3階にある食堂だった。中に入ると、タイ料理独特の香辛料の香りがして、椅子の上には猫がぐっすり眠っている。タイのムエタイジムそのものだった。
「日本じゃないみたいですよね(笑)。中1で入門した頃はジムにタイ人しかいなくて、それまで外国人と話したこともなかったんですけど、会長は日本語を喋れるからコミュニケーションも上手く取れるし『楽しいな』と思ってハマりましたね(笑)。
キックを始めたきっかけはK-1です。当時は地上波でやってて、魔裟斗さん、小比類巻さん、KIDさんは知ってましたけど、ムエタイは知らなくて。そこへブアカーオが出てきて魔裟斗さんをボコボコにしたのを見て『ムエタイって何だろう?』と興味を持って、調べたら近所にウィラサクレック・フェアテックスジムがあったんで入会したんです。
中学では、バスケ部に一瞬入ったんですけどすぐ辞めちゃいました。こっちの方が楽しくて」
練習は厳しかった。そこで「合う、合わない」が決まってくるが、杉本にはその厳しさが水に合った。
「会長もトレーナーも、みんな『ムエタイ』にプライドを持ってて、練習は普通のジムよりも厳しいと思います。同級生が入ったりもしたんですけど、みんな辞めちゃいましたね。
体は練習していくうちに強くなるんですけど、メンタルですね。アマチュアだろうと、トレーナーは厳しくいく時もありますし、逆に『分かりやすいな』と思います。トレーナーが厳しくしてくれる、イコール、自分を信頼してくれてるというのが分かるんで。『応えなきゃ』と思って、もっと頑張れますよね」
高校在学中の17歳でプロデビュー。ただ、いわゆる「十代からアマチュアキックで鍛え上げた天才少年」ではなかった。
「高校生の時は試合より遊びで(笑)。試合は年に1回ぐらいしかしてないんですけど、高校を卒業してみんな進学したり、進路を決めてて、僕は大学にもいかなかったんで『もっとキックを頑張ろう』と決めて。それからコンスタントに試合をし始めました」
卒業と同時に仕事も始めた。
「やっぱりキックボクシングだと稼げないんで、スポンサーというか応援してくれる人がいて、普段は月曜日から土曜日まで働きながら練習して、試合前は仕事は休ませて貰って、という感じです。
仕事はスプリンクラーの設置で、働きながら練習もするのは慣れるまでキツかったですけど、もう慣れました」
コンスタントに試合を経験し、少しずつ力を付けていったが、杉本は次第に「壁」を感じるようになる。
テクニックで魅せるタイプじゃない
「倒すこと」を意識したら倒せるように。
杉本の試合には友人たちが応援に来てくれる。だが、試合後に決まって言われるのは「つまらない」だった。
「客観的に見ても、一昨年ぐらいまでの自分の試合は『クソつまんないな』と思ってました(苦笑)。『勝てばいいんだろ』と思ってましたけど、応援に来てくれる地元の友達にも『試合がつまらない』と言われて(苦笑)。わざわざチケットを買って来てくれてるのに、そういう試合を見せてしまうのもどうかな、って思ってたんですけど。
でも、昨年2月の岩崎悠斗選手との試合では、途中までポイントで負けてたんで『行くしかない!』と思って、捨て身で攻めたことがあったんです。試合は判定で負けたんですけど、その時はいつも僕の試合をディスってた友達たちが『面白かった!』『あれはヤバいわ。また行くわ』って。
その反応を見て、こういう試合をするのがプロとして大事なんだな、と思ったんです」
改めて、自分のファイトスタイルを見直してみて、杉本は「今のままのムエタイスタイルだとダメだな」と感じた。
「ずっとムエタイを教わってきましたし、先輩たちも上手くて、テクニックのある試合をしてたんです。
僕もそういう試合がしたくて、蹴って、ポイントで競るような試合をしてたんですけど、元々、テクニックのある方じゃないんで(苦笑)。僕にはテクニックのある試合は無理だし、それこそ梅野(源治)さんの試合を見たら『こういう試合は無理だ』と思いました。
梅野さんのブログを読むと『天才肌じゃない。努力型だ』と書いているんですけど、僕から見たら天才肌の動きなんですよ。初めて生で梅野さんの試合を見た時なんて、タイ人よりタイ人の試合してたんで『凄いな』と思いました。軸が全くブレないですし、練習量も凄いと思うんですけど、センスもあったと思うんですよ」
杉本は、ファイトスタイルを変える。すると、練習相手のゴンナパーやタイ人トレーナーから高評価を得るようになる。
「ゴンちゃんに『タクヤ、次はパンチで行きな。パンチで行く方が倒せるよ』って。それまで倒すことなんて考えてなかったんですけど、スタイルを変えた途端にパンチ力がついた気がして、試合でもパンチで倒すようになって自分のパンチ力に自信がつきましたね」
昨年は岩崎悠斗(判定負け)、潘隆成(REBELS.51。判定勝ち)、鈴木真治(REBELS.52。判定負け)と1勝2敗で負け越したものの、この3戦で杉本は「トップクラスと十分に戦える」との自信を得た。
「それまでも強い選手とはやってましたけど、ポンポンと連戦で本当にトップの選手とやったのは大きかったです。『このクラスでやっていける』と思ったし、潘選手と鈴木選手からはダウンを奪って『倒すクセを身につけたな』と自信にもなりました」
そして今年3月、杉本は王座決定戦で1RKO勝利を収めて、J-NETWORKスーパーライト級王者となった。初めてタイトルを手にして、今回は王者として臨む初戦。REBELSの山口代表に対して、杉本は「モチベーションの上がる相手、強い相手をやらせてください」と要望する。
そうして、今回のスアレック・ルークカムイ戦が決まった。
ムエタイルールの「強いスアレック」に
真っ向勝負をして、倒して勝つ!
今年3月、スアレックはK-1初参戦でK-1WORLDGP第4代スーパーフェザー級王座決定トーナメントにエントリー。優勝候補と目されながらも、1回戦で小宮山工介のハイキックに沈んだ。
その結果に、ウィラサクレックジムは怒り心頭だったという。
「1週間ぐらい、ウチのジムは引きずってましたよ。『アイツは~』って(苦笑)。多分、言わされたんだとは思いますけど、記者会見とかで『ゲーオやゴンナパーより強い』って言って、あの結果ですから。僕もちょっと期待してたんで、倒された時は『ええ!』と思いましたよ(苦笑)。
ただ、K-1ルールだったし、体重も60㎏でしたから。現場で見てたんですけど、スアレック選手はげっそりしてて、元気がない感じがしてたんで。もちろん、小宮山選手は強いだろうと思いますけど、僕はスアレック選手はムエタイルールが強いと思ってるんで。パンチ、蹴りも強いですけど、特に強いのはヒジですよね。だから『K-1だと優勝まではいかないだろうな』とは思ってましたし、あの試合は何の参考にもならないです」
そうしたことをふまえて、あえて「ムエタイルールでのスアレック戦」を杉本は望んだ。
「チャンピオンになって初めての試合なんで、みんな対戦相手を選ぶと思うんですけど、僕は(山口)元気さんにわがままを言いました。『モチベーションの上がる相手とやらせてください』と。せっかくベルトを取って、ちやほやされたい気持ちもありますけど(笑)、それよりもヤバいヤツとやって勝ちたい、と思うんです」
杉本には、自分で決めた「期限」がある。
「格闘技は30歳になる前に辞めるつもりです。男3人の長男で、親孝行もしたいし、格闘技だとお金も稼げないですし、怪我とかで体のことも心配なので。
ベルトも獲って、そんなに長くやるつもりもないので、あとは『どんな舞台で、どれだけ強い相手とやるか』が自分の中で格闘技を続けていくポイントなんです。ルンピニー、ラジャダムナンを目指すには遅すぎるかな、と思うんで、それより強いヤツとやりたい、という気持ちですね。
スアレック戦が決まった時は、正直、怖さもありました。僕はムエタイルールのスアレック選手は強いと思ってますし、去年、REBELSのスーパーライト級トーナメントの時は『スアレック選手とやったら、こてんぱんにやられるんだろうな』と言っていたぐらいですから(苦笑)。
だけど、ゴンちゃんやゲーオ、KOUMAさんとスパーリングをしたり、練習でもすごく追い込んできて、タイ人トレーナーも『今のタクヤなら、スアレックとどちらが勝つか分からない』と言ってくれるんです。
僕は、梅野選手みたいにテクニックでスアレック選手を完封するような試合は出来ないんで、真っ向勝負で、倒して勝つしかないと思ってます。ぜひ後楽園ホールで、生で僕とスアレック選手の激戦を見てください」