才賀紀左衛門(クロスポイント吉祥寺)インタビュー

インタビュー

公開日:2018/7/12

聞き手・撮影 茂田浩司

キザエモンが「ハングリー」な理由
才賀紀左衛門、クロスポイント吉祥寺移籍&REBELS参戦!!

 7月2日、東京・クロスポイント吉祥寺2階の「トレーニングキャンプ吉祥寺」にて、才賀紀左衛門のクロスポイント吉祥寺移籍と、REBELS.57(8月3日、東京・後楽園ホール)参戦の記者会見がおこなわれた。
 才賀はK-1甲子園やK-1MAX、Krushで活躍した後、4年前にMMAに転向。パンクラスを経てRIZIN参戦。妻・あびる優さんの声援を背に、那須川天心とミックスルールで対戦し、豪快にKOされたシーンも記憶に新しいところ。
 その紀左衛門がなぜクロスポイント吉祥寺に移籍し、REBELSに参戦するのか。記者会見で語ったことと、会見では語られなかった「紀左衛門がREBELSで達成したいこと」とは何か。






ターニングポイントは那須川天心に喫したKO負け。
「天心に勝つには、真剣にキックの練習せなあかんな、って」



  7月2日、クロスポイント吉祥寺でおこなわれた記者会見で、才賀紀左衛門のクロスポイント吉祥寺移籍と、8月3日(金)のREBELS.57(後楽園ホール)にて小磯哲史(テッサイジム/蹴拳ムエタイスーパーフェザー級王者)との対戦が発表された。

 才賀紀左衛門(さいが・きざえもん)は大阪府出身の29歳。K-1甲子園で注目され、K-1MAX、Krush、SB等を経て、2014年よりMMAに転向。パンクラスで2戦2勝ののち、15年大みそかよりRIZINに参戦。RIZINでの戦績は1勝5敗。そのうちの1敗は、那須川天心とのミックスルール(1Rキック、2RMMA)。才賀は1Rから真っ向勝負を挑み、天心のカウンター一撃に沈んでKO負けを喫した。

 会見の冒頭、才賀はクロスポイント吉祥寺に移籍し、MMAからキックボクシングに戻ってきた理由を説明した。

「こんにちは、才賀紀左衛門です。今回、REBELSで試合をさせて貰うことになりました。去年1年間は自分自身、色々と悔しいことがあって『このままじゃダメだ、生活を改めないと』と思いました。
 俺はいろんなものに興味を持つから、自分自身に『何をしたら満足できるか?』と問いかけて、やっぱり俺は立ち技が得意だったんで、キックボクシングをやりたい。
 総合をやりたい気持ちもあるけど、今、日本では天心やいい選手が一杯いて、海外でもキックボクシングが盛り上がってる。だからもう1回、キックボクシングに戻って『紀左衛門、すげえな!』っていうのを見せたい。
 去年1年で俺から離れていく人もいたけど、ずっと応援してくれる人もいて、そういう人に恩返ししたいし、自分が迷ってて調子の上がらない時に手を差し伸べてくれた山口さんやクロスポイントさんにも恩返ししたい。
 見て分かる通り、クロスポイント吉祥寺の練習環境は日本一です。俺は日本でも海外でもいっぱい練習してきたけど、間違いなくここが日本で一番。いいトレーナー、いい仲間もいて、ここでしっかり練習して、試合で『紀左衛門、変わったな!』というところを見せられたらな、と思ってます」

 REBELSの主催者であり、クロスポイント吉祥寺の代表を務める山口元気代表は今回の移籍の経緯をこう説明した。

「才賀選手はここに2か月通ってます。前とは打って変わって(笑)、毎日、朝走ってミットやって、昼はフィジカルをして、ウーさん(トレーナー)のアパートで休んで、夜はミットとスパー、首相撲、補強。最初『紀左衛門、どうしたんだ?』『すぐまた来なくなりますよ』ってみんな言ってたんですけど(笑)、真面目に来てるので、晴れてクロスポイント吉祥寺所属になりました」

 質疑応答では「なぜキックに戻るのか」が焦点に。

「キックに戻った理由は、やっぱり天心。総合はまだ経験もなくてハードな相手とやってきましたけど『こうやれば勝てる』ってイメージがわくんですよ。朝倉海君の時なんて試合1週間前に言われて(苦笑)。だから今までやってきた選手たちとはもう1回やらせてほしいし、やれば勝てる。
 だけど、天心には普通にぶっ倒されて、すげえ悔しいし、あの子に勝つにはこのまんまじゃあかん、真剣にキックの練習をしないと。今まで『いけるやろ』ってノリで、K-1MAXの時(63キロ)も減量しないでナチュラルでやってて、でも俺はいなすのが上手いし、それでやれたんですけど。
 だけど、初めて天心に『やられた!』っていうのを味あわされて。だから天心に感謝してるし、俺は天心、大好きやし。
 で、クロスポイントはいい選手がたくさんいて、みんなでいい意味で競い合える。俺は昔、正道会館にいて、当時いい選手が多かったんで、俺は競い合って、一番になって、一番輝いて、引っ張っていくのが好きなんで(笑)」

 今後は、REBELSとRIZINを主戦場にしていく。
「もし、RIZINがキックトーナメントをやるなら出たい。ずっとRIZINに出てきた俺が出なくて、誰が盛り上げるんですか? 俺が強くて華があるなら、みんな、俺を見たいと思うし」

 ただ、RIZINキックトーナメントの主役、那須川天心との再戦という話を振られると、才賀は消極的だった。
「天心との再戦? すぐには無理っす(笑)。立ち技の試合は久しぶりやし、何戦かしないと」

 山口代表は、才賀の才能を高く評価しつつ「キックボクシングの試合勘を取り戻すためには、やはり数戦は必要」という。

「今までMMAをやってきたんで、キックの距離感、グローブ感を思い出すまでに数戦ほしいです。もちろん、8月の試合結果次第で(RIZIN代表の)榊原さんが『ぜひ出てほしい』となれば、大きな舞台には出た方がいいと思うので。
 才賀選手は、ここでフィジカルをやっても非常に運動能力が高いです。だから、もったいないですよ。ちゃんとしたトレーナーの下、育成計画を持ってやればもっと伸びます。でも、そういうことは自分で意識してやるから身につくもの。ギリギリ間に合う年齢でキックボクシングに戻ってきたかな、と(笑)。
 これからREBELSで試合をしていけば、倒せる選手になると思いますし、なってほしい。倒せる選手が人気が出るので。目もいいので無闇に打ち合うのではなくて、しっかりと当てて、しっかりと倒せれば、と」

 山口代表の言葉を聞いていた才賀はひとこと。

「ようやく格闘家になったかな、と(笑)」

 そうして、会見の締めとしてカメラに向かってコメントを求められると、才賀はこう語った。

「キックボクサーの中やったら、運動神経、フィジカルは俺が圧倒的に高いんで。今、すっかり真面目に練習してるんで、成長していく姿をみなさんに見せられると思うんで、楽しみにしてください。
 山口さんがおっしゃったように、今、気づけてよかった。これが35歳やったらどうやったかなって(笑)。今からガンガン試合して『紀左衛門、すごいな』というのを見せていきます。
 次のREBELSの試合、楽しみにしてください」






「ボンボンでした、中3までは」
紀左衛門の知られざる歴史と、妻、あびる優さんへの思いとは。



 会見を取材して、驚き、かつ納得したことがあった。それは「これまで真面目に練習してこなかった」という点である。
 昔、島田信行トレーナー(エディ・タウンゼント賞受賞の名トレーナー)から「才賀は才能あるよ」と聞かされた。しかし、いざK-1やKrushでの試合を見ると、上手さは感じるが「強さ」は感じなかった。目を見張るスピードもキレもパワーもなく、正直「いろんな選手を見てきた島田トレーナーが高く評価するほどの選手だろうか?」と思ったものだ。

 会見後、そのことを問うと、才賀は照れ笑いを浮かべた。

「いや、練習してるんですよ、俺の中では(笑)。正道会館にいた頃は1日1時間とか1時間半でしたけど、島田先生にはすごい教わってました。ただ『毎日走れ』と言われてましたけど、一人で走るのは苦手だったんで(苦笑)」

 「遊びに忙しく」練習は短時間だったが、その一方で才賀には「勉強熱心」という面もある。

「昔から体の勉強はしてて、特にフィジカルの勉強はしてきたんですよ。昔、格闘技の人は誰もやってなかったけど、サッカーとかではフィジカルを昔からやってたじゃないですか。俺は昔からフィジカルの勉強して、自分の体で試してみたりもしてきた。だから、そういう知識もあるし、海外のジムでも練習してるんで、クロスポイントの良さが分かるんです。ここは最高ですよ。強くなって当たり前、ここで強くなれない子は他のジムに行っても強くなれないですね」

 才賀の言う通り、2人のタイ人トレーナーに加えて、フィジカルトレーナーが常駐し、ボクシングトレーナーが教えに来る格闘技ジムは他にはない。
 また、才賀が「ここまで揃ってるのは凄い」と絶賛するのが、クロスポイント吉祥寺の2階に新設された「トレーニングキャンプ吉祥寺」の設備である。自走式のトレッドミル=スキルミルやウェイトトレーニング、ファンクショナルトレーニングの設備を備えており、才賀は「ここだけですべてのトレーニングが出来る」と驚いたという。

 真面目に練習を始めて2か月、才賀自身、29歳にして「強くなった」という実感はあるのか。

「どうなんですかね? それは俺が判断することじゃなくて、山口さんやトレーナーが判断することです。でも、動きは全然良くなってますよ。
 もし、これが陸上やったら辞めてます(笑)。誰よりも速く走る、それは年齢的に無理です。だけど、格闘技はボクシングを見ても分かりますけど40歳まで出来ます。こんな痛い競技、俺は40歳まで出来ないですけど(笑)、でもまだまだ出来るし、まだまだ伸びますよ。ここにはいいトレーナーがいて、いい選手たちがいて、みんなと相談しながら出来るんで」

 ここで、かねてからの疑問をぶつけてみた。
 才賀の実家は会社を経営し、社長は父親だという噂を聞く。才賀自身、格闘技を辞めたら大阪に帰って会社を継ぐ、ということになるのだろうか。
 実家の話を切り出すと、才賀は「俺、超ボンボンですから」と笑っていたが、さらに突っ込んで聞くと真面目な顔でこれまで語ってこなかった事実を明かした。

「邪魔くさいから説明もしてなかったんですけど、みんな誤解しているんですよ。中3まで、俺はボンボンです。歩いて学校に行ったことがなかったんで。でも、親父が亡くなって、そっから生活がバーンと変わってすげえ苦労しましたよ。
 会社は義理の兄貴が継いで、いろんな事情があって、俺は義理の兄貴とは疎遠なんで。中3の時におかんと喧嘩して、俺、荒れてたから家を出て一人で生活するようになって。無茶苦茶やってました(苦笑)」

 中3で家を出てからは金銭的な援助はなく、生活費にも事欠く状態も経験した。

「義理の兄貴が日本に帰ってくる時は自家用ジェットだと聞くと『そんな金があるんやったら、少し分けてくれよ』と思うけど(笑)。でもそれはそれでそういう人生。親父は一代で会社を大きくしたし、俺もしっかりと格闘技を頑張って、親父が亡くなってから俺たち三兄弟を一人で育てたおかんを早く楽にさせてあげたい。今でも俺が何かすると、おかんは『そんな金があるんやったら貯金しなさい』って言うし」

 これまで才賀の言動を見ていて、彼の「目立ちたい、チャンスをモノにしたい」というハングリーさ、貪欲さは、一体、どこから来るものなのだろうと思っていたが、彼は何もない状態で格闘技界に身を投じ、今日まで生き抜いてきたのだ。

 今回のキックボクシング復帰には、もう一人、才賀が「幸せにしなくてはいけない人」の存在がある。
 妻、あびる優さんだ。
 今回のREBELS.57、あびる優さんは観戦に来るのか、と聞くと、才賀は「来ないです」と答えた。

「調子のいいヤツにはなりたくないんで、一度、自分で這い上がらないと。(見てて)安心できる試合を出来るようになってからちゃいます? 久しぶりの試合やし『見に来てくれ』なんて言えないです。自分が『これやったら見に来て貰っても大丈夫』って言えるようにならないと」

 リングサイドでの熱狂的な応援ぶりが話題となったあびる優さんだが、同時に、試合で失神したり、怪我をする夫・才賀を目の前で観るというとても辛い経験も味わうこととなった。

「ウチの奥さんは、キックボクシングは天心の試合しか見てないし、後は俺が総合でしんどい思いをしてるのしか見てないから。ぶっちゃけ、格闘技は好きじゃない。そうさせてしまったのは俺の責任なんで。
 だから、どんどんどんどん勝って、ウチの奥さんが安心できる試合をしないと。そのためにも俺は『キックボクシングやな』って思ったんです。総合でチャレンジしてる場合じゃない。今、天心っていうモンスターがおるから、自分の得意なキックでチャレンジした方がいいな、って。
 これが20歳なら『キックも総合も両方』と思っただろうし、今でも両方できっちり成績を残す選手になれると思ってますよ。でも、ぶち抜ける選手になるには、天心に勝たないといけないんで。そのためには何年かキックに専念して、タイトルを獲ったりしていかないと。
 今、ものすごい練習してますよ。こんなに練習したことないんで最初は苦痛で(苦笑)。でも、ここで逃げたら、もっと苦痛になるじゃないですか。
 それに、俺には色々とアドバイスしてくれたり、救ってくれた人がたくさんではないですけど何人かいるし、ウチの奥さんにも助けられてます。『モンちゃん、こうした方がいいよ』って言ってくれることも一杯あるんで。そういう意味で毎日勉強になってますよ。特に、今年になってからはね(笑)。
 今、俺が一番輝けるのはキックです。日本でも海外でもキックは盛り上がってますけど、俺は山口さんにも恩返ししたいんで、どんどんREBELSを盛り上げていきますよ。8月3日、ぜひ会場に見に来てください」

プロフィール
才賀紀左衛門(さいが・きざえもん)
所属:クロスポイント吉祥寺
生年月日:1989年2月13日生まれ、29歳
出身:大阪府堺市
身長:168cm
戦績:27戦16勝(4KO)9敗2分、MMA7戦3勝(2KO)4敗

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