小笠原瑛作&潘隆成インタビュー

インタビュー

公開日:2018/10/5

聞き手・撮影 茂田浩司

「クロスポイント吉祥寺の生え抜き組として、
しっかり勝って、来年2月TOKYOMX生中継に出たい」

 クロスポイント吉祥寺の軽量級エース、小笠原瑛作(おがさわら・えいさく)と「REBELS次期エース」潘隆成(ぱん・りゅんそん)。最近はクロスポイント吉祥寺の恵まれた練習環境と試合チャンスを求めて他ジムから移籍する選手が増えているが、小笠原と潘はクロスポイント吉祥寺でキックを始め、プロになった「生え抜き組」。
 二人に、ジムでの出会いやプロ練のエピソードを聞いたところ、話は思わぬ方向に進んでいった………。






「僕とパン君はいろんな先生に教わってて、今では考えられないような経験もしているんです」(小笠原瑛作)
「あの時は本気でキックを辞めようか、と」(潘隆成)



 小笠原瑛作は1993年生まれの23歳。潘隆成は1995年生まれの25歳。同年代だがキック歴は小笠原が遥かに長く、小5から始めて12年。ジュニアで活躍後、15歳でプロデビュー。
 潘は中高とサッカー部で活躍し、高3の時にクロスポイント吉祥寺に入門。キックを始めて、わずか7年で日本のトップレベルに肉薄するところまで来た。

潘隆成(以下、パン) 瑛ちゃん(小笠原瑛作)は、僕がジムに入った時はもうプロデビューしてましたし、お兄ちゃんのユキ(小笠原裕典)もプロで1戦していたんです。その頃、タクヤ(T-98)さんとヒデ(炎出丸)さんはスクランブル渋谷で練習してて。初めて「プロ練」(プロのための練習時間。一般会員とは分けられている)に参加した時にいたのが瑛ちゃん、ユキ、後は全員辞めちゃった人たちですね」
小笠原瑛作(以下、瑛作) だいたい辞めちゃいましたからねぇ。僕らは数少ない生き残りなんです(笑)。
パン 僕は友達と一緒に入ったんですけど、やっぱり友達も辞めました(苦笑)。最初は一般会員で入ったんですけど、当時のコーチに「プロ練に来い」と言われて。その練習が……、えげつなかったんです(苦笑)。

 中高とサッカー部で活躍し、サッカーの実績で大学に推薦入学した潘。体力には自信があったが、当時のクロスポイント吉祥寺のプロ練は「めちゃめちゃ厳しかった」という。
 現在はタイ人トレーナー、ボクシングトレーナー、フィジカルトレーナーが常駐し、個々の能力に合った練習で選手の実力や個性を伸ばしているが、当時のプロ練担当コーチは「とにかく量をやれ」という教え方だった。

パン まだタイ人トレーナーがいなくて、ミットは持ち合いですし「階段ミット」といって1発、2発、3発と連打する数を増やして10連打までしたら、今度は9発、8発と減らしていく。それの繰り返しを3ラウンドとか。
瑛作 そればっかりだったから精神的に辛かったよね(苦笑)。
パン 首相撲も相当長い時間やってましたし。最初のプロ練がそれで「キックしんど!」と思いました(苦笑)。だから、瑛ちゃんを見て『俺より年下で、毎日毎日こんな練習してるってすげえな』と思ったんです。練習を見てても迫力が凄くて。
瑛作 でも、試合になると判定ばかりの「塩試合の瑛ちゃん」の頃でした(笑)。
――瑛作選手のド迫力の練習と、首相撲多用の「塩試合」にギャップは感じなかったですか?
潘 K-1の試合はテレビで見てましたけど、首相撲ありのムエタイを見るのは初めてだったんで、瑛ちゃんの試合を見て「こういうのがムエタイか」って思ってました(笑)。
瑛作 おい!(笑) パン君は入ってきた頃、こんなに面白いキャラの人だと思わなかったんですよ。今は皆にいじられまくったり、いじったりしてますけど(笑)、その頃は一緒に来てた友達の方が目立ってて、その陰に隠れてる感じで。

 その頃は、昔の格闘技ジムにありがちな「プロの洗礼」がクロスポイント吉祥寺にも存在した時期だった。ジムに山口会長が不在で、当時プロ練を任されていたコーチが選手たちに命じていたのである。

瑛作 当時はプロ練の参加者が少ない上に、新しい人が入って来るといきなり「スパーやれ」ってやらされたんですよ(苦笑)。
パン 僕はすぐにタクヤさんとスパーさせられました。タクヤさんは「本気で打て」って言われてたそうで、顔面は手加減してくれたんですけど、ボディは強めに打って。そうしたら友達がタクヤさんのボディで吐いちゃったんです(苦笑)。
瑛作 トイレで吐いちゃったんだっけ?
パン トイレに駆け込もうとしたけど間に合わず、リング内でボタボタボタっと(苦笑)。あの時は本気で「辞めよう」と思いました。後で聞いたら、タクヤさんも「嫌だった」って。僕が入って2か月ぐらいでそのコーチが辞めて。
瑛作 それからはそういう「かわいがり」みたいなことは一切ないですよ。

 先日の日菜太インタビュー(9月14日公開)では、クロスポイント吉祥寺の若手に対して「元気がない。もっと一生懸命に勝ちにいけよ!」「REBELSで目立つのは地方の選手。活きが良くて『食ってやろう!』って気持ちが伝わってくる」と苦言を呈している。
 これに対して、二人が口を揃えたのは「最初から今の環境で育ってきたわけではない」ということ。

瑛作 「ハングリーさ」という部分ではそうですね。東京にいて、充実した環境にいて「温室育ちのおぼっちゃま、瑛ちゃん」なので(笑)。危機感を持たないといけないな、と思いますね。
パン 確かに地方の選手から「勝たないと次はない」っていう気持ちは感じるので、それを上回る気持ちで試合しないといけないな、っていうのはいつも思ってます。ただ、僕らは現在のプロ練からキックを始めたわけではないんですよね。
瑛作 特に、僕とパン君はいろんな先生に教わっているんですよ。その時代、その時代で「あの先生の頃はきつかった」みたいのは結構あるんです(苦笑)。僕はアホなことばっかり言いながらしんどい練習をしたいので(笑)練習中は一切私語禁止みたいな時代もあって、その時はかなりきつかったですよ。
パン あった、あった。
瑛作 4年前にウーさんというムードメーカーが来て、明るくて、厳しい練習になって「辞めにくく」はなっているかもしれないです。
――理不尽なかわいがりは一切なくても、プロ練の練習自体の厳しさはありますから、ついていけなくて辞める人もいるんですね。
パン そうですね。ただ、プロ練の参加者は本当にめちゃめちゃ増えてますよ。プロ、アマの参加者がとても多くてトレーナーが大変そうです。今はターちゃん(パヤックレック)とウーさんだけだとミットも追いつかなくて(山口)会長がプロ練に来てくれてやっと回っている感じです。
瑛作 昔のプロ練を知ってるから、今は変わったな、全然違うな、って思いますよ。あっという間にどんどん練習環境が良くなって、本当に感謝ですね。






「大人の階段を上ってる瑛ちゃんを魅せちゃいます!」(小笠原)
「来年2月の生中継で祖父母に試合を見せたい」(潘)



 REBELS.58目前。小笠原瑛作はKING強介と、潘隆成は健太と対戦する。

 小笠原瑛作は8月2日、タイ国ラジャダムナンスタジアムで開催された「スック・ワンソンチャイ」に出場し、開始からアグレッシブに攻めて、最後はバックブロー1発で2RKO勝利。この試合、小笠原はウーさんからこんなアドバイスをされていた。

瑛作 ムエタイも流行があるみたいで、ウーさんから「今、ラジャのジャッジはパンチが好きだから、フィームー(テクニシャン)の戦いじゃなくてパンチで倒しに行こう」って言われてました。今、ムエタイは激闘派の選手が目立ちますよね。
パン 確かに。
瑛作 テレビマッチは面白い試合をする選手が選ばれて、テレビマッチに出ると顔と名前が売れるので、選手の中に「面白い試合をしよう」って意識があるのかなって思いましたね。
――瑛作選手も持ち前のスピードを見せて、見事なKO勝ちでした。
瑛作 攻めながらも、粗いところを無くして倒しに行くことを意識していました。前は「スタートダッシュで早く倒したい」って思ってましたけど、今は「相手を見る」ということは出来てると思いますし、ラジャでも5Rやるつもりで試合したので。ウーさんにずっと「タイミングが大事」と言われてきて、自分でも「3分5Rならじっくり組み立てて戦えるな」というのも分かってきて。

 また、8月から9月、小笠原は名門PKセンチャイジムで1か月間練習を積んだ。

瑛作 23歳の誕生日もタイ、年越しもタイで、キックボクサーらしいなって(笑)。自分の中で課題があって、その練習は日本でもタイでも変わらないんですけど、タイではムエタイ特有の距離感の上手さとか、首相撲のちょっとしたコカし方を体感したり。あとは練習の質ですね。あっちのミットは1ラウンド4分ですけど、途中でリングサイドの桶にツバを吐きにいったり、お喋りしたり。日本のミットは3分間にギュッと集中してやるんですけど、タイは練習の時から「抜くところは抜く」んです。こういう練習をしてるから、試合中も時々力を抜いたりしながら、後半はどんどん集中を増していく試合運びが出来るんだろうな、って。

 ムエタイを倒すために、ムエタイへの理解度をさらに深めた小笠原。今回の相手、KING強介は今年REBELSに参戦し、2勝1分けでまだ負けなし。「大物食い」に闘志を燃やして来る。

瑛作 こういうのが一番嫌ですねぇ(苦笑)。でも、ウーさんが「KING強介には絶対勝つ、KOする」(10月2日公開のインタビュー)なんて余裕こいてる時ほど、僕は自分で気合いを入れていかないと(笑)。ライオンがどんな弱いものでも全力で狩りに行くように、しっかりと狩りをしようかな、と。
 KINGさんは僕を倒したら「美味しい」と思ってるだろうし、勝負の世界は何があるか分からないですから。気を引き締めていきますし、やることは変わらないので。今、積み上げてるものをやるだけです。相手がタイ人だ日本人だとか考えてると足をすくわれるだけなんで。相手も全力で倒しに来るから「楽勝」とか「余裕の試合」なんてないんです。

 潘隆成は「65㎏日本最強・健太チャレンジVol.2」と題して、健太と対戦する。前回はUMAが健太に挑戦。「健太越え」を目指して攻め続けるUMAに対して、健太は上手くしのぎ、要所要所で反撃し、クリーンヒットの数で上回った。
 潘はどうやって健太を倒すつもりなのか。

パン 自分の強みは、練習の時からタクヤさん、不可思さん、日菜太さんたち、強い人たちとやらせて貰っていることだと思います。練習の時からガンガンやられるので(苦笑)、試合中に相手の攻撃を喰らって「やばい」と思ったことはないんです。僕も今の環境でジムに入ったわけじゃなくて、昔のプロ練のえげつなさとか色々と経験してきているので。前を知ってるからこそ、今の環境に感謝しながらもっともっと上を目指したいです。

 潘といえば抜群のフィジカル。細かい筋肉まで鍛え上げられた体は、現在も日々進化している。

パン トレーニングキャンプ吉祥寺が出来たことは本当に大きいですね。効率良く追い込めるので、体もどんどん大きくなってきてますし、パワーが付いているのも実感してます。
 健太さんに勝てば「これから世界と戦っていく」とアピールできると思うんです。今回はワンマッチですけど、一番大事な試合になるなって思ってます。下馬評は「健太さん有利」でしょうから、逆に僕は思い切っていけます。

 最近、2人のモチベーションを上げる発表があった。来年2月17日、新木場スタジオコーストで開催される「PANCRASE REBELS RING(仮称)」がTOKYO MXとUFC FIGHT PASSで生中継されることだ。

瑛作 クロスポイント吉祥寺で育ったREBELSの小笠原瑛作が出ないわけにはいかないでしょう! しっかりと魅せたりますよ!
パン もちろん意識してます。被災した祖父母は試合会場まで来られないんで、TOKYO MXなら生中継で見て貰えるんで(*西日本豪雨災害で岡山県倉敷市真備町の祖父母宅は全壊し、祖父母は現在東京の潘の実家で生活している。潘はTシャツの売り上げとファイトマネーの一部を倉敷市に寄付した)。
――お孫さんの試合について何と?
パン おばあちゃんは「怖い」と言ってますけど、おじいちゃんは「見たい」と(笑)。僕が勝つ姿を見せて、おばあちゃんとおじいちゃんを元気づけたいです。

 最後に、二人は「10.8」で何を見せるのか。

瑛作 23歳になって初めての試合ですからね。大人の階段を上ってる瑛ちゃんを魅せちゃいます!(笑) 勝負の世界は何があるか分からないんで、気を引き締めてしっかりと仕留めます。
パン 下馬評は健太選手なんで、俺が勝てば会場も湧くと思うんで「まさか」の展開を作って。ここは本当に、死んでも勝つ、ぐらいに思ってます。最近はターちゃんのミットで鍛えられて、蹴りがパワーアップした手応えがあるんで、試合では「強さ」をしっかりと見せます!

プロフィール
小笠原瑛作(おがさわら・えいさく)
所属:クロスポイント吉祥寺
生年月日:1995年9月11日生まれ、23歳
出身:東京都武蔵野市
身長:172cm
戦績35戦30勝(17KO)4敗1分
WPMF世界スーパーバンタム級王者、ISKA世界バンタム級王者、第二代REBELS52.5㎏級王者、初代REBELS-MUAYTHAIフライ級級王座

潘隆成(ぱん・りゅんそん)
所属:クロスポイント吉祥寺
生年月日:1993年8月2日生まれ、25歳
出身:東京都国分寺市
身長:181cm
戦績:28戦19勝(5KO)6敗3分
元WPMF日本スーパーライト級王者

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