ウザ強ヨシヤインタビュー

インタビュー

公開日:2018/11/29

聞き手・撮影 茂田浩司

ヨシヤ君のサクセスストーリー
「大学の4年間はキックばっかりで僧侶みたいな生活。
でもムエタイの試合で鼻を折られて病院送りになった『すべらない話』が就活でものすごくウケて、
大手メディア企業の内定が貰えました」

 12月5日(水)、東京・後楽園ホールで開催される「REBELS.59」に異色の現役大学生ファイターが参戦する。
 REBELS-MUAYTHAIライト級次期挑戦者決定戦で大谷翔司(スクランブル渋谷)と戦う、ウザ強ヨシヤ(テッサイジム)である。
 ウザ強は、今年7月のRIZINに出場。計量日前夜の緊急オファーに応えて「中量級日本最強」海人(TEAM F.O.D)と戦った。結果は2RKO負けだったものの、無茶苦茶なオファーを受けて大舞台に上がった度胸と、珍しいリングネームで、一躍、格闘技ファンに知られる存在となった。
 現在、日大の4年生。「大谷戦に勝ち、来年2月のタイトルマッチにも勝って、REBELSのチャンピオンになる」と語る一方で「もし大谷さんに負けたら、きっぱりとキックはあきらめて、残りの大学生活は目一杯遊びます(笑)」という。
 「人と殴り合って倒すとか、全然好きじゃない」というウザ強。
彼はいかにしてキックボクシングにハマり、ムエタイの試合で鼻を折られたエピソードを「すべらない話」に練り上げて就活に臨み、超難関の大手メディア企業の内定を勝ち取ったのか。






格闘技大嫌い、目立つのは大好きなチャラい少年は、
アマチュアで「勝つ喜びと負ける悔しさ」を味わい、キックボクシングにのめり込んだ。



 SNSでユニークなプロモーションを続けるテッサイジム。REBELS.59に出場する原島モルモット佑治とウザ強ヨシヤには「5分間耐久フリートーク」が課された。

 「格闘技を始めたきっかけは、可愛い彼女と付き合ってたらイカつい野球部に目を付けられて身の危険を感じ、護身のためにテッサイジムに入門したこと」だという。

「子供の頃は格闘技が大嫌いだったんです。親父は格闘技大好きで、年末は必ず格闘技番組を観るんですけど『変えてくれ。殴り合うなんて可哀想』って思ってました(笑)。
 親父は昔、喧嘩がめっちゃ強かったみたいで、俺のファイトスタイルは好きじゃなくて『もっと殴り倒せよな』って。厳しく言われることはないんですけど、那須川天心のお父さんみたいな人だったら絶対にスタイルを変えられてるでしょうね(笑)」

 父は会社役員、母は専業主婦で一人っ子。中学受験し、日大三中、日大三高、日大とエスカレーターで上がってきたが、学校生活では結構な「波」を経験した。

「中2まではホントにダメな子だったんです。サッカー部は練習がキツすぎて仮入部で辞めて、成績も悪くてプー太郎みたいな生活してて(笑)。でも学校から『このままだと上がれない』と言われて、そこから変わりました。個人塾に行って勉強したら成績も上がって、目立つのが大好きなんでバンドのボーカルをやって文化祭に出たり、可愛い彼女と付き合い出して、バラ色の生活をしてたんです(笑)。
 だけど、高校に行ったら、アイドル的な人気のあった彼女と付き合っていることで、野球部のイカツいやつらに『チャラい』って目を付けられて。先輩を間違えて後輩だと思って暴言を吐いちゃったりもして『これ、ヤバいぞ』と思って(苦笑)」

 身の危険を感じて「強くなろう」と近所のテッサイジムに入門。しかし、最初はキックにも身が入らなかった。

「高2の夏に入ったんですけど、1、2か月サンドバッグを叩いてたらプー太郎気質が出ちゃって(笑)。部活の陸上部もあったんで休会して、そうしたら高3の夏にテッサイジムの小磯会長から『アマチュアの試合に出ないか?』って連絡が来たんです。部活も引退して、日大への進学も決まってたんで『出てみようかな』と」

 軽い気持ちで出場したアマチュアの試合で、本気で何かに打ち込んだことのなかったウザ強は、初めて「勝つ喜びと、負ける悔しさ」を経験する。これが人生のターニングポイントとなった。

「最初の試合で、たまたま出したバックブローが当たって勝っちゃったんです。『俺、才能あるだろ。キックボクシングいけんじゃね?』と思って(笑)、次にJ-NETWORKのクラスBトーナメントに出たら相手が強くて(苦笑)。『やべえ』と思って時計を見たらまだ開始40秒で、心が折れた瞬間にボコボコにされました(苦笑)。それで『負けると悔しいな!』と思って。アマチュアでいきなり勝った時の喜びと負けた時の悲しみと悔しさ、その両方を味わってしまってキックボクシングのトリコになっちゃいました(笑)。高3の10月からは毎月アマチュアの試合に出ましたね」

 大学入学後は、新歓にも行かず、教室では誰とも喋らずに、授業が終わると真っすぐジムに向かう生活をした。

「家、学校、ジムを回るだけの僧侶みたいな生活です(笑)。高校のキャラで『お前、どうせ大学で遊ぶんだろ?』ってすげえ言われて、そういう視線も感じてて。『いやいや、俺はお前らより頑張ってるんだよ』と心の中で思いながら『見返してやろう』と思って練習してるうちに強くなっていったんですよね」


 『ウザ強ヨシヤ』の名づけ親、小磯会長はアマチュア時代のウザ強をこう振り返る。
「本当にウザかった(苦笑)。下手くそなのにパワーだけはあって、手加減もできないんでスパーで相手を怪我ばかりさせるし、ミット持ちの金的打ったり背中蹴ったり。で、練習後は『俺、どうでした? 俺、どうでした?』ってみんなにしつこく聞いて回る(苦笑)。
 アマチュアの試合に出たら出たで、リングに上がった途端に偉そうな態度になって、試合中に舌を出して挑発して相手をイラつかせたり。だけど、練習は本当に熱心で、ぐんぐん強くなっていくので『ウザヨシヤ』ではなく『ウザ強ヨシヤ』にしました」






キックボクシングで味わった壮絶な経験を「就活の最終兵器」に練り上げて、
超難関企業の内定を勝ち取った!



 2016年7月、大学2年の時にREBELSでプロデビュー。その翌年、ウザ強は「プロで試合をした証」を勝ち取るべく、J-NETWORKの新人王トーナメントにエントリーする。
 何かの肩書きを得て、就活を有利にするためだ。

「大学3年の時が一番キックボクシングに夢中で、いろんな欲も無くなってましたけど、就活だけは意識してましたね(笑)。
 まずJ-NETWORKで新人王になって、その後にREBELSに出ようと思ったんです。J-NETWORKからは最初『4人トーナメントだから3月と5月で終わる』と聞いてて、春休みにタイに1か月行って練習して帰ってきて、1回戦を勝ったら『もう1ブロック追加して8人トーナメントにする』って(苦笑)。ふざけんなよって思ったんですけど、2回戦も勝って、その後、タイに行ってまた1か月練習して。その時にタイで試合して鼻を折られて。結果的にはこれ(鼻に出来た骨折のあと)が就活でめっちゃ使えたんで(笑)今思えば超ラッキーでしたけど」

 タイでは「試合が決まった」と言われ、慣れない土地で自己流の減量に入ったところ、体が栄養不足となってヒジに蜂窩織炎を発症。そんな苦労の甲斐もなく、計量3日前に突然「今回は計量なし」と告げられて、ガックリと肩を落とすことに。

「タイもひどいですよね(苦笑)。会場はアンバサダーホテルの屋上みたいなところのリングで、みんなビールを飲みながら見てるんですけど、試合はめちゃめちゃいい試合だったんですよ。鼻は折られましたけど5ラウンドまで戦って、日本だと『勝ってたかな?』ぐらいの感じで。相手は1階級上のタイ人で、後でFacebookをフォローしたらベルトを幾つも巻いてる写真が載ってました(笑)」

 鼻骨が折れたため、J-NETWORK新人王の決勝は12月に延期された。その試合前、ウザ強をかつてないプレッシャーが襲う。

「新人王を取るか取らないで、就活で話した時の印象が全然違うぞ、と思ったら気持ちが入りすぎちゃって。オーバーワークになって、試合の10日前から寝れなくなりました(苦笑)。試合も、絶対に勝てると言われてた相手にすげえ苦戦して。だから、那須川天心とか凄いですよ。背負ってるものがもの凄くデカいし、年下ですけど尊敬してます。新人王になった時は『これ以上、上に行ったらもっと注目されてプレッシャーがキツいんだろ? 精神的に持たないぞ。もう一生やりたくない』って思いましたから」

 新人王を取り、ウザ強は就活を始める。第一志望はテレビ局だったが、志望者はもの凄く多く、採用数が少ない超難関。しかも、自分の個性に自信のある者ばかりが集まる激戦区だ。
 だが、そんな個性派大学生の中にあっても「プロキックボクサー・ウザ強ヨシヤ」はひときわ異彩を放った。

「就活では『タイで試合して、鼻骨を折られた話』を練って練って、どの角度からの質問にも『タイの話』が出来るようにしました。
 たとえば、喜怒哀楽、すべての質問をタイのエピソードに結びつけて話せるようしたんです。嬉しかった話なら『試合の後、海外のお客さんにめっちゃ喜ばれたのが嬉しかったです』、悔しかった話なら『鼻を折られてめちゃめちゃ悔しかったです』とか。タイの話を全面に出して、新人王の話はとっておく作戦だったんですけど、タイの話がめっちゃウケが良かったんですよ(笑)。
 俺は見た目が格闘家っぽくないんですよね。普通の大学生に見えるんで、それと『プロのキックボクサーで、タイで試合して鼻骨を折られた』というギャップも良かったのかな、って」

 プロキックボクサーとしての経験を最大限に生かし、超難関の面接を次々と突破。ウザ強は、第一志望の大手メディア企業の内定を勝ち取った。

 ウザ強の「強運ぶり」は、今年7月のRIZIN出場時にも発揮された。

「試合の話は偶然、聞いたんです。合同トレーニングしてたカズ・ジャンジラさんのところにRIZINからオファーがあったんです。それが計量前日だったんで、カズさんは『体重が落とせないから無理』と断ったんですよ。俺も『相手は海人ですか? それは止めた方がいいですよ』って言ってたら『お前、出れば?』って話になって(苦笑)。ジャンジラジムの人たちはノリがいいんで『出ろ、出ろ』って、それで断り切れなくなって出ることにしたんです(笑)。
 俺も、自信過剰じゃないんで『海人には勝てないだろう』とは思ってましたけど、試合直前のアップが終わったら動きもキレキレだし、ゾーンに入ってて『勝てる』って。動いて、ハイキックを当てるイメージが出来てて、一度ボディ打ってガードが落ちたところにハイキックを蹴ったんですけど、肩に当たってしまったんです。あれが当たってたら、と思いますけど、海人はデカかったですね。それに練習なら当たったと思うんですけど、試合ではちょっと硬くなってしまうんで。
 でも、海人も僕のことを知らないし、動いてくるとは思ってなかったみたいでやりにくそうでしたよ。俺も『やるしかねえ』って楽に試合が出来たんで、あれはあれで楽しかったです」

 今回のREBELS.59での大谷翔司戦に、ウザ強はキックボクサーとしての進退を賭けて臨む。

「負けるならここだな、と思うし、タイトルマッチに行けるならこの相手に勝ってだな、と思うし。
 大谷さんとはこれまで2回試合してますけど、常に強くなったきっかけの人なんです。アマチュアの時は、勝ち続けて『これ、プロでやれんじゃね?』と自信を付けた時に大谷さんに負けて。プロデビュー戦の時は、先にプロデビューした大谷さんが当時プロ無敗で。俺が勝ちましたけど、試合前は『デビュー戦でいきなりプロ無敗の大谷さんなのか』って思ってましたよ(苦笑)。

 今回は圧倒的な差を付けて勝ちたいです。デビュー戦の頃の俺とは違うぞっていうところを見せたいし、ここで勝てなかったらこの先もキックを続けていく自信はないです。
 2か月前からファイトクラブ428(しぶや)で、集中してタイ人トレーナーのミットを蹴ってきて、スパーリングの相手も増えてガッツリと練習してきました。今回はホントに練習環境が良くて、いい練習が出来てます。
 『格闘技が自分のすべて』という人はある意味、うらやましいですけど、僕にとって格闘技は人生の1ピース。ここで勝って、来年2月のタイトルマッチにも勝って、REBELSのチャンピオンベルトを巻けたら『その先』も見てみたい。だけど、負けたら『努力したけどここまでだった。しょうがない』と思える。残りの大学生活は、全然遊べなかった4年分、遊ぶつもりです(笑)。
 試合が本当に楽しみだし、観てる人にも楽しい試合をするんで、ぜひ会場に来てください」

プロフィール
ウザ強ヨシヤ(うざつよ・よしや)
所  属:テッサイジム
生年月日:1996年10月15日生まれ、22歳
出  身:東京都世田谷区
身  長:169cm
戦  績:6戦4勝1敗1分
2017年度J-NETWORKライト級新人王

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