「破天荒な天才児」栗秋祥梧インタビュー

インタビュー

公開日:2019/1/31

聞き手・撮影 茂田浩司

「東京に来たからには世界のトップに立って女優さんと結婚したい(笑)。
五反田キャバクラボーイ事件?なんで山口代表にバレたのかな?(笑)」

 2月17日(日)、東京・新木場スタジオコーストで開催される「PANCRASE REBELS RING.1」(パンクラス・レベルス・リング・ワン)。「DAY」(午前11時15分開始)と「NIGHT」(午後5時半、本戦開始)の二部構成で「NIGHT」はTOKYO MX2で第1試合から終了まで全試合完全生中継、エムキャスとUFC FIGHT PASSでは「DAY」、「NIGHT」とも全試合生配信される。

 REBELSの地上波ゴールデンタイム生中継初進出に当たり、山口元気代表が「REBELSの魅力を伝えるインパクトあるカード」と自信を持ってマッチメイクしたのが「栗秋祥梧vsKING強介」のハードパンチャー対決である。

 KING強介は一昨年にREBELS初参戦。破竹の勢いでREBELS-MUAYTHAIスーパーバンタム級王座を獲得した「西の豪腕」。対する栗秋祥梧は「フェニックス祥梧」のリングネームで様々な団体で活躍した後、昨年10月にクロスポイント吉祥寺に移籍。昨年11月のKrush初参戦では、得意の左フック一撃で1ラウンドKO勝利を収め、試合後は武尊ばりにコーナーからのバック宙を決めて観客と関係者の度肝を抜いた。

 得意の左フックは、山口代表や高橋ナオトトレーナー、日菜太ら、クロスポイントの誰もが驚嘆する圧倒的な破壊力を秘めている。だが、その一方で「練習をサボって寝てる」「体力が全然ない」といった問題児ぶりもSNSを通じて発信されているが……。

 栗秋祥梧とは、一体、何者なのか。






小中といじめられ、集団リンチに遭ったことも。
兄・和輝のサポートでプロで活躍し、念願の東京へ



 栗秋は2歳上の和輝(2・17「パンクラス・レベルス・リング1」出場)と二人兄弟。幼少期から女手一つで育てられた。

「小さい頃に両親が離婚して、ずっとお母さんとお兄ちゃんと3人暮らしでした。お母さんは僕が3、4歳の頃は朝も夜も働いてて、ご飯だけは作ってくれてたんで、朝はそれを食べてお兄ちゃんと一緒に学校に行って。5時ぐらいに帰ってくると、お母さんは夜7時、8時からまた仕事で帰りは夜中。だから1日2時間ぐらいしか一緒にいれなくて、小学校の頃はほぼお母さんの寝顔しか見てない感じでした」

 淋しさもあり、学校では絶えず喧嘩していた。

「小さい頃からよく喧嘩してました。多分、それが友達には気にくわなくて、小5ぐらいからいじめられるようになって。
 僕も小4から格闘技をしてたので、最初は『こいつら、ボコボコにしてやる!』って思ってました。もっと強くなって、やり返そうって。心配させてしまうんで、お母さんにもお兄ちゃんにも僕がいじめられてることは言えなかったですから。
 中2ぐらいまでずっと荒れてましたね。僕もやられたらやり返すプライドはあったんでいつもやり返してたら、先輩たちに集団リンチされたり。地元では色々ありました(苦笑)」

 16歳でプロデビュー。19歳の時に兄と二人で格闘技チームを立ち上げ、様々な団体のタイトルを取って「九州5冠王」に。
 そして、昨年夏、さらなる飛躍のためにクロスポイント吉祥寺への移籍を決め、10月から東京で生活している。

 まだ23歳。その秘めた才能はクロスポイントでも高く評価され、将来のエース候補と目されているものの、反面、寂しがり屋で、腰が定まらず、私生活では危なっかしい。そんな彼をここまで支えて、東京に送り出したのが兄の和輝である。
 山口代表は「和輝は男気があって、強い信念がある」という。兄の献身的なサポートなしに、現在の栗秋祥梧の活躍は語れない。

「お兄ちゃんは小学校の頃は一緒に格闘技をしてたんですけど、中学に上がる頃に音楽一本にしたんです。中2からイベントでMCをしたり、DJをやったりして、ウチにも音楽関係の先輩がよく来るようになって。僕はそういう先輩たちが怖かったんですけど、イカつくて憧れるようになって『僕も格闘技を辞めてお兄ちゃんと音楽する』って言ったら、お兄ちゃんから『お前は格闘技をやめるな』って」

 弟に格闘技を続けさせるために、兄は自分の夢をあきらめた。

「所属してたジムを辞めてしまって、練習場所もないし、ミットを持ってくれる人もいないし、グローブもパンチンググローブ一個だけ。試合の機会もなくて『やっぱり格闘技は辞める』って言ったら、お兄ちゃんは『俺がミット持ちをやってやる』って。その時にDJの機材とか持ってたCDを1000枚ぐらい全部取っ払って『お前が目指すところに一緒に行くし、お前を育てていく』って。
 お兄ちゃんは根性が半端なくて、相当な負けず嫌いです。二人で格闘技チーム『Muay Thai Phoenix』を立ち上げる時、僕は一度『俺のミット持ちは無理だから』ってお兄ちゃんを離そうとしたんですけど、お兄ちゃんはYouTubeでずっとミットの動画を見たり、練習してるとアドバイスしてくれて『僕のために色々と考えてくれてるんだな』って。
 でも、いまだに『格闘技がなかったらもう1回音楽したい』って言うんですよね」

「大分では『KNOCK OUTに出てKO勝ちすること』を目指してて、昨年5月に参戦してKO勝ちしてしまったら、新しい『これから』を作る気になれなくて。23歳ですけど『もういいかな』って。
 でも、前々からお兄ちゃんと『東京に出たいな』って話してて。2年後を見据えて、25歳で東京に出るのと、今23歳で出てきて25歳の自分と見比べたら『絶対に違う』って感じたんで。今しかない、と思って」

 だが、肝心の弟は兄の心を知ってか知らずか……。






クロスポイントが震撼した「五反田キャバクラボーイ事件」。
破天荒な天才児は、秘めた才能を開花させられるのか!?



 昨年10月に上京し、クロスポイント吉祥寺が寮として借りているマンションの一室に入った。
 普通なら「これからしっかり練習して、もっと上を目指すぞ!」となるところだが、上京してきた栗秋は「不眠症で夜寝れなくて」と昼過ぎまで寝ていて、朝練に顔を出さない。
 しばらくして、山口代表が栗秋を呼び出した。

「会長(山口代表)に『お前、五反田で働いてるだろ?』と言われて、バレてないと思ったんで『いや……』ってごまかそうとしたら『キャバクラで働いてるんだってな!』って。びっくりして、なんで知ってるんですかと聞いたら『お前の情報はすべて知ってるんだよ!』って言われて(笑)。会長にはウソ付けないんで、すべて話しました」

 上京後、アルバイトを探していた栗秋は、知人から五反田のキャバクラを紹介された。

「吉祥寺とか新宿だとバレると思って『一気に離れた方がいいな』と思って、五反田にしたんですけど2週間でバレました(苦笑)。
 キャバクラには飲みに行ったこともないし、こっちの人は怖いイメージだったんですけど、紹介してもらった店長さんがいい人で、僕の環境も知ってくれてて。『練習がきつかったら来なくていいから』って言ってくれたんです。勤務時間は夜8時から朝4時で、なんで最初の頃は朝練に行けなくて寝てたんです(笑)」

 問題は、生活態度だけではなく「体力のなさ」もあった。クロスポイント吉祥寺のプロ練にまったく付いていけないのだ。

「練習が相当キツいんですよ。ミットとかめちゃくちゃキツいし、プロのフィジカルトレーニングに一度参加したら、2週間、足が曲げれなくてジムの階段を上がるのもやっとで。『無理だ』と思って、一般のフィジカルトレーニングのクラスに出てます(笑)」

 体力の無さは「パンチに体重を乗せるのが天才的」(日菜太)という上手さでカバー。加えて、栗秋には23歳にして「プロ50戦」という豊富な経験がある。ただ、それだけの試合数をこなす上で栗秋がしてきた工夫も、彼らしく「破天荒」だ。

「お兄ちゃんと『Muay Thai Phoenix』を立ち上げた時、すべて失ったんです。試合のオファーはなくて、大会を主催する人の連絡先も知らなくて。今まで出た大会のパンフレットをチェックして『よかったら僕を使ってください』って連絡したんですけど、みんな僕がジムを辞めたことを知ってるので『フリーになったヤツを使うわけにはいかない』って。唯一、拾ってくれたのが福岡で開催されてる『大和』って大会です。僕の状況を主催の方が知ってくれてて『それなら俺のところで戦っていけ』って。それで何戦かしてタイトルを取らせていただいたら、試合のオファーが殺到したんです。

 僕はそのオファーを全部受けて、自分でも『試合させてください』って声を掛けていたので、年間で16試合とか普通にしてました。試合日が重なった時は、日曜日の午前中に大分で戦って、夜は福岡で戦ったこともありますよ。
 試合が2週続くこともありますけど、試合が終わった後にすぐ減量は相当キツいんで、今週57キロで試合したら次の週は60キロとか調整してました。ただ、骨とか痛めると1週間では治らないんで『今日は右足が痛いから、パンチと左足で勝負しよう』って、左足が得意な選手をYouTubeで見て、自分の中でイメージ付けたり。一度63キロのトーナメントで準優勝しますけど、相手と体格が違いすぎてヤバかったです(苦笑)。会長(山口代表)に話したら『馬鹿じゃないの』と言われました(笑)」

 体は弱いが、メンタルはめちゃめちゃタフ。いつも栗秋は自信に満ち溢れている。  2月17日に迫った「パンクラス レベルス リング.1」での「西の豪腕」KING強介との1戦を前にしても、特に気負うことはないという。

「もうバッチリです。(KING強介は)大したことない(笑)。あんまりわかんないですけどね。試合の映像は見たんですけど(小笠原)瑛作さんの戦い方が素晴らしすぎて(笑)。全然わかんなかったです」

 栗秋が見た映像は昨年10月「REBELS.58」で行われた小笠原瑛作対KING強介。小笠原が力強いローで終始主導権を握ったが、KINGも最後の最後まで粘り、小笠原が判定で勝利した。

「(KINGは)パンチャーだと聞いたんで、いい勝負ができるんじゃないかな。ガツガツと打ってくると思いますけど、僕の左フックには警戒しとけよ、って感じですね(笑)。僕は左フックでしか倒したことないんで(笑)」

 栗秋は、自身の左フックに絶対の自信を持っている。その自信は、クロスポイントでの練習でさらに揺るぎないものとなった。

「昨年10月のパンクラスさんで古谷野(一樹)選手とやらせて貰った時は、僕の左フックが何発か当たったのに古谷野選手の気持ちが強くて倒れなかった。僕は『うわ、調子悪いわ!』と思って、これ引きずるパターンだと思ったんですけど、12月のKrushでは左フックを全然打ち抜いてないのに相手が倒れてびっくりです(笑)。
 クロスポイントではいつもスパーリングでボコボコにされるんで、自分の中で全然自信ないし、フィジカルもついていけないんで強くなってる実感なんてなかったです。
 でも、Krushで試合して『相当力がついてきたな』って。やっと自分らしさが出てきた、ってイメージがわきましたね。
 今も練習でボコボコにされてますけど(笑)力はついているんで。試合までにメンタルを上げていきますし、ムエタイスタイルとは違う、新しい自分のスタイルを作っていきたいと思ってます」

 栗秋が目指すのはまず日本のトップ、そして世界のトップに立つ。東京に出て、那須川天心や武尊を見ていて強く思うことがある。

「こっちに来て一番思うのは、今、一番有名な那須川天心選手とかK-1だと武尊選手とか、憧れてたり『倒したい』って思ってる選手が一杯いるじゃないですか。
 僕は全然違って、僕なりの色で那須川選手とか武尊選手を追い越したい、って感じですよ。僕は僕なりの方法でまず日本のトップに立って、それで世界のトップに立って自分をアピールしたい。僕はマイクパフォーマンスが下手で、試合で分からせないとマズいなって(笑)。どんどんKOで勝って、僕をアピールしていきたいです。
 東京に来たからには世界のトップに立つ人間になりたいし、それで女優さんと結婚したいです、ハハハ」

 山口代表は「栗秋は変わってきた」という。
「毎日休まず練習に来るようになって、朝も(小笠原)瑛作たちと走るようになった。彼なりの努力が見えますし、少しずつ成長していると思いますよ。表情を見てても、きっとジムが学校みたいで楽しいんでしょうね(笑)。それはすごくいいことですよ」

 1月23日の大会記者会見では、栗秋はこう宣言した。
「KING強介選手に勝ってトップに立ちたいので、しっかりと勝って次につなげたい。スピードもテクニックも自分の方が優ってると思うので、強介選手に負けたら終わりかなと思ってます。自信しかないです」
 秘めたポテンシャルと東京に来てからの進化が問われる1戦。「天才児」栗秋祥梧は一体、どんな戦いを見せるのか!?

プロフィール
栗秋祥梧(くりあき・しょうご)
所  属:クロスポント吉祥寺
生年月日:1995年4月23日生まれ、23歳
出  身:大分県日田市
身  長:169cm
戦  績:50戦34勝(16KO)13敗3分
タイトル歴:元ISSHINキックフライ級王者、元ムエタイ大和フェザー級王者、元stair king60kg王者、元PRINCE REVOLUTION58kg、61㎏王者

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