浅川大立(あさかわ・ひろたつ)インタビュー

インタビュー

公開日:2019/2/14

取材・撮影 茂田浩司

「責任世代」必読!!
37歳、会社社長、業務に忙殺される日々。
それでも浅川大立(あさかわ・ひろたつ)が「キックで完全燃焼」にこだわる理由

 2月17日(日)、新木場スタジオコーストで開催される「PANCRASE REBELS RING.1」(パンクラス・レベルス・リングワン)。午後5時半からの「NIGHT」には日菜太対現役ムエタイ王者シップムーン、「筋肉美女」ぱんちゃん璃奈vs「女子高生ファイター」川島江理沙のトライアウトなど注目カードが並ぶが、午前11時半からの「DAY」も負けてはいない。63㎏と60㎏の王座決定トーナメントやスーパーウェルター級リーグ開幕戦には、個性派や若手ホープがそろった。
 「DAY」のメインを飾るのは浅川大立vs才賀紀左衛門。才賀は、K-1やRIZINでの活躍で知名度抜群だが、実力と実績は浅川も負けていない。昨年5月にイノベーション王座を獲得すると、昨年12月の岡山59kg賞金トーナメントで3試合勝ち抜いて優勝。現在、37歳。建設業の会社を営み、多忙な業務に追われながら戦う「社長ファイター」。打ち合い上等、バチバチスタイルで毎度、熱い試合をすることで定評がある。
「完全燃焼することだけを考えて、1試合1試合、覚悟を決めてリングに上がっているんです」
 浅川の戦い続ける理由とは何か。






仕事と家庭で多忙な日々に、一度はキックを諦めかけた。
「一度きりの人生、後悔したくなくて32歳で復帰しました」



 子供の頃は、特にスポーツに打ち込んだ記憶はない。
「小中とサッカーをやってましたけど、そんなに真面目にやってなかったですね(笑)。高校ではアルバイトして、バイクが好きなんでツーリングして、運動はしなかったです」
 高校卒業後もフリーターをしながら趣味のバイクに没頭。20歳の頃に佐川急便に入社し、23歳の時に先輩に連れられてダイケンスリーツリージムへ。ここでキックボクシングに目覚めた。
「試合が大好きなんですよ。打ち合うのが楽しくて『俺は打ち合うために生まれてきたんじゃないか』と。これはね、本気で思っているんですよ(笑)」

 アマチュア大会を経て、26歳でプロデビュー。いきなり3連敗という試練を味わうが、4戦目でプロ初勝利を収める。しかし、そこから5年間、浅川はキックボクシングから遠ざかった。
「さあ、これからだ、という時だったんですけど、カミさんの家でやっていた住宅の基礎工事の会社を俺が継ぐことになったんです。
 子供も小さいし、仕事は休みなしでやっている状態で、正直、キックどころじゃなくなってしまったんですよ」

 無我夢中で働きながら、時折、キックボクシングのことが頭をよぎった。
「後悔がありました。『やり残した感』があったんです。ただ、仕事も忙しいし『このままやることはないのかな』とも思ったんですけど……。
 だけど、1度きりの人生で、あとで後悔することはしたくない。それで32歳の時に思い切って復帰したんです」

 社長業とキックボクサーの両立は、生半可な気持ちでは出来なかった。
「土曜の夜まで仕事をして、計量も俺だけ当日にして貰って、日曜の朝に計量してその夜に試合。月曜日は朝8時から現場に出て、普通に仕事をしていました。
 今は、怪我した時のことを考えて、試合翌日の月曜日だけは俺が休んでも支障のないように段取りしてます。2日休むことはないので、火曜日からは通常通りに仕事です」

 練習環境は決して恵まれているとは言えない。だが、浅川は復帰した時からすべて覚悟の上だ。
「山梨にもキックボクシングのジムが4つ5つあって、出稽古に行くこともありますけど、スパーリングはなかなか出来ないです。上のレベルになると、東京に出ていく選手も多いですよ。
 だけど、どんなに練習環境に恵まれていようと、自分次第ですからね。やるヤツはどんな環境でもやるし、やらないヤツはどこに行ってもやらないんですよ。
 俺は朝8時から夕方5時まで現場やって、その後は見積書や請求書なんかの事務仕事です。実はこの事務仕事が大変なんです(苦笑)。それでも1時間でも2時間でもジムに行って、ミット打ちとサンドバッグを目一杯やります。走ったりもしたいんだけど、そんな時間は取れないですよ」

 浅川の練習に付き合い、浅川の苦労を一番近くで見てきたダイケンツリースリージムの森会長は「今回のような大きな大会に参戦できて嬉しい」と喜ぶ。
「浅川さんは仕事でどんなに夜遅くなってもジムに来るので、僕もミットを持って練習に付き合ってきました。この3年間は、本当に二人三脚でもがきながらやってきて、地方の選手でもこんなに強いぞ、といろんな人に見て貰えるのは嬉しいことですよ」

 キック復帰後、浅川の活躍は目覚ましい。昨年12月の岡山トーナメントは「ヒジありルール、1日3試合」という過酷な条件だったが、浅川は見事に優勝した。
「目の前の1試合にすべてを掛けてやりました。3試合目はさすがに疲れもありましたけど、次の試合まで2時間ぐらい空くんで、思ったよりも回復できた。ダメージだけはどうしようもないんだけど、優勝した時は『あと2、3試合できるな』という感じでしたよ(笑)。
 実際、まだまだ進化しているのを感じるんです。年齢は37なんだけど、始めたのが23歳と遅いし、ブランクも5年間あるんで、試合の経験を積んで『前より進化してる』っていう手応えがあるんです」

 浅川が今、唯一不満に思うのは「逃げのクリンチ」についてだ。
「俺のやりたいことと、お客さんが見たいものは一致しているんですよ。『漢同士、バチバチに殴り合う』、これですよ。
 だけど、俺が打ち合いに行くと必ずクリンチで逃げられるんです(苦笑)。ディフェンス技術なのも分かるんだけど、プロだからお客さんが見たいものを見せなきゃいけないじゃないですか。俺は打ち合いたい、お客さんは打ち合いを見たい、相手の選手だけが『打ち合いたくありません』っていう(苦笑)。
 少し前に、サッカーでバックパスをキーパーが手でキャッチするのを反則にしたじゃないですか。キックも3回クリンチで減点するとか、もっと厳しくして貰いたいですよ」






今、大きな怪我をしたらもう出来ない。
毎回「これで終わってもいい」と覚悟を決めて戦ってる。
今回も、バチバチの打ち合いで倒します。



 2.17「パンクラス レベルス リング1」で、浅川は才賀紀左衛門と対戦する。才賀といえば、バックステップやディフェンス技術を駆使し、カウンターの上手さで勝負する選手。1月17日の大会記者会見の際も「バチバチで殴り合いたい」という浅川に対して、才賀は「俺は痛いのは嫌(笑)」と殴り合いを拒否。  バチバチに持ち込みたい浅川、ステップを駆使してかわしながらカウンターを狙う才賀、という構図が見えてくる。
 しかし、浅川は「俺のやることは変わらない」とキッパリ。
「対策は一切立てません。昔は作戦を立てて試合したこともあるんだけど、俺はものすごく不器用なので全然上手くいかない(笑)。変に意識すると自分のいいところが出せなくなるんで、俺は俺のバチバチ打ち合うスタイルでいきますよ」

 浅川の出場する「DAY」は、エムキャス(パソコン、スマホで視聴)で生中継されて、日本全国で視聴できる。
 浅川には、心中期するものがある。
「嬉しいですよ。どうせやるなら、目立つ舞台、みんなが見る輝ける舞台でやりたい。才賀選手は名前が売れてる選手なので、勝てば俺の名前も売れるな、と思うと嬉しいじゃないですか(笑)。
 カミさん? きっと『そろそろ辞めてほしい』と思ってるかもしれないけど、俺が言われても辞めないのを分かってるから(笑)。会場に応援に来てくれますよ。子供は、娘が中2、息子が小5で、小さいうちには応援に来てくれたんだけど、今は部活やらなにやらで忙しくて応援に来てくれないですね。お姉ちゃんは吹奏楽、弟はサッカーで、毎週試合してますから(苦笑)。
 今、全国的に人手不足、業者不足で、やり切れないぐらいの量の仕事が来るんです。でも仕事は断るわけにいかないし、ありがたいことなんで。責任は全部しょってて、基礎のコンクリート工事の仕事はミリ単位、寸法とか高さで本当に神経をすり減らします。仕事はいかに精度良く仕上げるかが勝負で、俺はキックの精度には全然自信がないんだけど、コンクリート工事の精度にはかなり自信がありますよ(笑)。
 今、試合で大きな怪我をして、半年、1年休むようなことになれば、さすがにもう出来ないです。だから、とにかく後悔だけはしたくないんで、毎回『これで終わってもいい、全力を出し切る』と腹を決めてリングに上がってます。
 普段の生活、仕事も、キックも『完全燃焼』でやってきて、今度の試合も同じですよ。
 才賀選手がどんなに足を使って逃げようが、俺はどんどん追っかけて、この『漢気の拳』を打ち込んで倒します! 応援、よろしくお願いします!」

プロフィール
浅川 大立(あさかわ・ひろたつ)
所  属:ダイケンスリーツリー
生年月日:1981年10月15日生まれ、37歳
出  身:山梨県甲府市
身  長:172cm
戦  績:27戦18勝(6KO)9敗。イノベーションフェザー級王者。岡山59kg賞金トーナメント優勝


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