“ニンジャ”宮越慶二郎×良太郎(レベルス王者&名参謀)インタビュー

インタビュー

公開日:2019/4/15

取材・撮影 茂田浩司

宮越慶二郎「ニンジャステップ」復活の陰に、
「トレーナー良太郎」あり。

 4月20日(土)の「REBELS.60」(東京・後楽園ホール)。メインイベントを飾るのは、NJKFと新日本キックのエース対決“ニンジャ”宮越慶二郎(拳粋会宮越道場)対“蒲田のロッキー”勝次(目黒藤本ジム)。交わる機会がないと思われていた二人が、まさかのREBELSリングでの対戦となった。
 宮越は、昨年12月のREBELS.59で「超攻撃型ムエタイ」スアレック・ルークカムイ(スタージス新宿)と激闘を繰り広げ、5ラウンドKO勝利を収めた。宮越にとって実に1年半ぶりの勝利。長い長いスランプから抜け出すきっかけは、REBELS-MUAYTHAIライト級王者にしてTeamAKATSUKI代表の良太郎(池袋BLUE DOG GYM)とのミット打ちだという。
 宮越は良太郎とのミットでどう変わったのか。そして勝次戦でどんな戦いをしようとしているのか。二人が練習している池袋BLUE DOG GYMを訪ねた。






「慶二郎のニンジャステップは唯一無二。
他のトレーナーではミットを持てないと思う」(良太郎)



 レベルス王者と指導者の二足の草鞋を履く良太郎。池袋BLUE DOG GYMと、自身で主宰するTeamAKATSUKI(千葉県鎌ケ谷市)で週3日ずつ、ミットを持っての指導と自身の練習をこなしている。
 宮越はキックボクシングフィットネス「K26 KICKBOXING CLUB」(宮越道場所沢、新所沢バンブールーム)で一般向けの指導をしながら、様々なジムで出稽古をして腕を磨いており、その1つが池袋BLUE DOG GYMだった。

宮越「良太郎さんとは最初はスパーリングをさせていただいていたんですけど、1年前に『ミットを持ってあげようか』と言っていただいたので、ぜひお願いします、と。僕は、そもそもミットを持って貰う人がいなくて、ミット打ちがほとんどできなくなってて。それ以来、週1回、BLUE DOG GYMでミットを持っていただいています」

 良太郎が声を掛けたのは理由があった。
良太郎「僕は元々ミットを持つのが好きだし、プレイヤーとしてもそうだけど、ミット持ちとしても自信があるんですよ。ただ、一流の人を持たないとレベルが上がっていかないんで、宮越慶二郎という一流の選手を持てるなら、と」

 当時、宮越はなかなか勝てずに苦しんでいた。2017年は4戦して1勝3敗。しかも3つの負けがKO負け2つとTKO負け1つ。対戦相手が強豪ばかりとはいえ、不本意な結果が続いていた。
 良太郎は、すぐに宮越のスランプの原因を見抜いた。
宮越「伸び悩んだ時、ボクシングジムに行っていたんですけど、パンチの打ち方からすべてを直されてしまって。僕も結構素直なので(苦笑)、教えられると『こっちの方がいいのかな?』と。そうしたら、良太郎さんと久しぶりにスパーリングしたら『あれ、普通になったね』と言われて(苦笑)」
良太郎「元々のステップを知ってるから、オーソドックスのワンツーばかりになってて『おいおい、どうした?』と(笑)。ボクシングジムで型にハメられてしまったんだな、と。日本人はすぐ型にハメたがるけど、宮越慶二郎といえば変則的なステップワーク(ニンジャステップ)です。これは唯一無二、他の選手では絶対に真似が出来ないんですよ。他団体になるけど、朝久兄弟なら『朝久道場のスタイル』。でも慶二郎は『宮越道場のスタイル』じゃない。お兄さん(宗一郎氏)はアップライト、オーソドックスで圧を掛けるスタイルで、慶二郎はまったく違う。慶二郎のステップワークは独立独歩で作り上げたものだから、トレーナーはそこを汲み取っていかないと独特な部分を消しちゃうんですよ」

 良太郎もミットを持ち始めた頃は、宮越の変則スタイルにどう対応するか、相当に苦労したという。
良太郎「動き方が本当に特殊です(苦笑)。最初は右構え同士のミットをやりましたけど、それだと慶二郎の持ち味が全然活かせないんで途中から『好きに動いて』って。スイッチしたい時はスイッチして、パンチ打ちたい時はパンチを打つ。型の決まったミットしか持てない人は、慶二郎の型の決まってないミットは受けれないでしょうね。日本人のトレーナーは、正直、下手なんですよ」

 実際に、宮越と良太郎のミットを見た。
 宮越は、目まぐるしくオーソドックスとサウスポーのスイッチを繰り返し、ステップの幅を変え、サイドに動き、遠めから飛び込むと相手の反撃はバックステップでかわす。
 良太郎は短く指示しながら宮越の動きに対応し、ミットを自在に操る。攻める宮越、受ける良太郎、二人の運動量が尋常ではなかった。
 宮越慶二郎の「ニンジャステップ」は、普通の選手の2倍、3倍の運動量を必要とすることが分かった。これだけ激しく動きながら、良太郎の差し出すミットに瞬時に反応し、次々とミットにパンチやキックを打ち込めるのは、反応スピードの速さと動体視力の良さを兼ね備えた宮越だから可能なのだろう。
 「豊富な運動量を誇る宮越慶二郎にしか出来ない、超変則的で、高度なテクニック」が「ニンジャステップ」の正体。この特性を理解した上で、ミットで対応できるのは、旺盛なスタミナを持ち、スピードに付いていける現役選手の良太郎だからこそ。

 良太郎のミットを目掛けて、連打を打ち込み続けた宮越。3分5ラウンドのミット打ちを終えると、さすがに肩で息をしていたが表情は晴れやかだった。
宮越「自信が付きますね。普段はスパーリングした後にこのミットをやるので『4、5ラウンドでどこまで動いて、攻められるか』をテーマにやってます。良太郎さんの短い指示にすぐ反応して攻撃を出すので頭を使うんです。頭を使うとスタミナも使うし、それを良太郎さんの動きに付いていきながらやるので、ギリギリのスタミナでどこまで動けるか。試合終盤のシミュレーションになります」






スアレック戦は想定通りのKO勝利。
「蒲田のロッキー」勝次との激闘をどう制するのか?



 宮越「最初、ジムで良太郎さんと他の選手がミット打ちをしてるのを見た時は、その速さに驚きました。どうやって打ち合わせしてるんだろう、と聞いたら、その場その場だよ、と。ただ、よく見ると僕のやっているパターンとも違うし、選手それぞれ違うんです。だから、本当に持ち手がすごいんですよね。全部合わせてくれるので」
良太郎「僕のジムの選手なら『これやれよ』と言いますけど、慶二郎とは師弟じゃないし、お互いにプレイヤーでもあるので。慶二郎最優先で『次の試合はどういくの?』と聞いて、慶二郎から『こういきます』と聞いて、そこをベースに考えて『ここはこうしたらいいんじゃないの?』と話し合いながらやってますね」

 二人が事前にイメージした通りに戦えたのが、昨年12月の「REBELS.59」スアレック・ルークカムイ戦だった。
宮越「最終ラウンドでも全然スタミナが落ちなくて、あれは良太郎さんとのミットの成果が出ましたね」
良太郎「フィニッシュブローは完璧でしたね。あれをずっと練習していたんです。プレイヤーの立場でいえば、最初からあのステップをやってよく4、5ラウンドも動けるな、と思いますよ(笑)。ただ、二人で話してたのは『3ラウンドマッチだとちょっとキツイね』と」
宮越「そうなんです。実際に、3ラウンドだとスアレック選手も全然余力が残ってて」
良太郎「29-28辺り、2-0とかで僅差だけど持っていかれたかもしれない。でも、5ラウンドなら、慶二郎が最後まであのステップが出来れば、絶対にスアレックは付いてこれない。それは分かってたんで」
宮越「本当にプラン通りでしたね」

良太郎「実は、パンチなりヒジなり、何かしらを当てたらスアレックは怒って前に出てくるよ、とも言ってました。その時に慶二郎が元気ならカウンターを打てるから、と。ただ、僕はセコンドじゃないんで『これをしろ』とは言えないんですよ。『打てるんじゃない?』(笑)。あとは本人次第です。何しろ一流の選手なので『あとはまかせた!』と(笑)」
宮越「スアレック選手の突進力は物凄かったんです。ただ、それも想像はしてて『そこをズラして、カウンターを打てれば最高だな』っていうのがあったんです」
良太郎「あそこで足を止めて打ち合うんじゃなくて、慶二郎は前に出て打ってくるスアレックのパンチを横に動いてかわしながら打てる。それは強みですよ。でもその『勝負どころ』で動けるようにするのも僕の仕事なんで。試合の2週間前のスパーが最悪の動きで『このままじゃ負けるよ』って」
宮越「言われました(苦笑)」
良太郎「でもその翌週に立て直してて、慶二郎のステップが見事で全然つかまえられないんですよ。『これは勝てるな』と思いました」

 勝次戦に向けて、宮越には期するものがある。
宮越「今回は勝たないといけない、と思ってます。この試合に勝って、やっと復活と言える、という感じです。『前回はたまたまラッキーだったんでしょ』と思ってる人も中にはいると思うんで、まぐれじゃないよ、実力だよ、と」
良太郎「慶二郎の戦績を見たら、まぐれじゃないことぐらい分かるけどね(笑)」
宮越「ずっと僕の試合を見てる人には『羅紗陀戦(2016年のNJKF年間最高試合で宮越勝利)の頃に戻った』と言われたんですけど、それは自分でも思いましたね。あの頃はイメージが良かったんで」

 宮越は「イメージ」を大事にしている。今回もすでに勝次戦勝利のイメージは描けている。
宮越「イメージは出来てます。ただ、試合前にきっちりと研究はしなくて、何となく『こう来たらこう、ああ来たらああだな』と持ってて、あとは試合をしながら考えます。1、2、3ラウンドでしっかりと見て、研究して、4、5ラウンドで仕留められたら、って」
 宮越の強みの一つが「予測不能」であること。過去の試合を研究しても、まったく違うことをする場合がある。
宮越「最近、新しいことは取り入れてなくて、練習では今までやってきたことを研ぎ澄ます作業をしてます。ただ、僕は、試合中に進化することもあるんですよ。相手に自分の未知の部分を引き出されるというか(笑)、試合中に新たなテクニックを覚えることもあるんです」
 良太郎には「宮越勝利」の道すじが見えているが、一つ、不安材料もある。
良太郎「慶二郎は、リングに上がると気性がかなり荒いんで(笑)。僕も他人のことは言えないけど、前半でパッと火が付いちゃうと何を言っても聞かないで行っちゃうと思うんで『あとはまかせた!』って感じですよ(笑)。冷静に前半を戦えれば、僕が一つ浮かんでるパターンでいけると思うんですけど」

 宮越には、この試合に勝ち、マイクで叫びたいことがある。
宮越「大みそかイベント出場です。今年は『大みそかイベントに出る』と予定を立ててるんで、大みそかに向けてのカウントダウンはもう始まっているんですよ(笑)。勝次選手との試合は、必ずいい試合、激闘になると思うんで、それで勝って、アピールしていきたいです。ぜひ、応援をよろしくお願いします!!」

プロフィール
宮越慶二郎(みやこし・けいじろう)
所  属:拳粋会宮越道場
生年月日:1990年1月28日生まれ、29歳
出  身:埼玉県所沢市
身  長:170cm
戦  績:39戦25勝(7KO)12敗2分
WBCムエタイインターナショナルライト級王者

良太郎(りょうたろう)
所  属:池袋BLUE DOG GYM。TeamAKATSUKI代表
生年月日:1988年12月21日生まれ、30歳
出  身:千葉県柏市
身  長:178cm
戦  績:26戦11勝(4KO)11敗5分
REBELS-MUAYTHAIライト級王者(防衛1回)

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