鈴木宙樹インタビュー
インタビュー
公開日:2019/5/10
取材・撮影 茂田浩司「2冠王の葵拳士郎選手が相手でも全然問題ないです!REBELSのベルトは僕が巻きます!」
デビューから10連勝で初タイトルマッチ&メイン抜擢!
「倒し屋」ヒロキが強気な理由。
伝統派空手、MMA、小比類巻道場、スポーツジムインストラクターを経て、
「未経験のふりして」クロスポイント入会
父はスペインとペルーのハーフ。母は日本人だが「辿っていくとロシアの血が入ってるみたいです」。両親は日本で知り合って結婚し、ペルーへ。
「僕はペルー生まれで、弟の千裕(ちひろ)がお腹の中にいる時に家族で日本に戻ってきたので弟は日本生まれ、僕は3歳からあきる野市で育ちました」
「よく外国人観光客に英語で話しかけられる」というその彫りの深い顔立ちで子供の頃は嫌な思いもした。
「みんなと顔立ちが違いますからね。目がパッチリしてるんで『デメキン』とからかわれたり、肌が若干黒いんでそのことを言われたり。こういう性格なので(笑)気にしてはいなかったですけど、結構、内心は傷ついてましたねー。自分では覚えてなかったんですけど、お母さんに『目を細くしたい』って相談したこともあったそうです。
今でも自転車に乗ってると、よくお巡りさんに『ちょっといい?』って止められるんですよ(苦笑)。免許証を持ってないんで保険証を出すんですけど『これ、君の?』って聞かれて『そうなんです、鈴木なんですよー』って説明してます(苦笑)」
格闘技には幼い頃から親しんでいた。
「お父さんが格闘技好きで、小さい頃から一緒にK-1を見てました。4~5歳の頃に無理やり伝統派空手の道場に入れられて、それからずっと寸止めの空手をやってました。
中3の頃に『人を殴ってみたい』と思うようになって(笑)、キックボクシングを始めたんです。高校ではUFCのリョート・マチダの試合を見て『MMAをやりたい、MMAのプロになりたい』と思うようになって、キックと同時進行でMMAもやってました。ジム主催のスパーリング大会に出たり」
だが、MMAで頭角を現すのは3歳下の弟、千裕だった。昨年のパンクラス・ネオブラッドトーナメント・フライ級優勝の千裕は、子供の頃から身体能力や運動センスの点で兄の宙樹より遥かに上だったという。
「弟はバック転とかも普通に出来ますし、試合を見て貰えば分かると思いますけど自分より遥かに才能があるんです(苦笑)。自分は女の子にびっくりするぐらいモテなくて『喋んなきゃカッコいい』と昔から言われるんですけど(苦笑)、我慢できないんです、喋っちゃうんですよー(笑)。だから、弟は『失敗作』を見てるんで、運動神経も、モテも、全部持っていきました(笑)。
MMAを始めた時も、弟はあっという間に強くなっちゃって。『やべえ!』と思ったんですけど自分はアマチュアのMMAの試合で勝てなくて、それが嫌でキックに行ったんです」
空手道場のつながりで高校時代から週1で小比類巻道場に通い、高校卒業後は小比類巻道場の寮に入り、プロデビューを目指して日夜練習に明け暮れた。が、体育会系の厳しさにまったく付いていけず、数か月で挫折。
「はい、半年ももたなかったですー(苦笑)。小比類巻道場を辞めた後は、トレーニングジムでインストラクターをやってました。『もうキックボクシングは出来ない』と思ってたんですけど、弟がクロスポイント吉祥寺に通ってて『自分もやりたいな』と思って。最初は『未経験なんです~』と言って入会したんですけど、練習してたら山口会長に『プロ練に参加してみない?』と誘われまして。
だけど、クロスポイントには小比類巻道場でお世話になった外さん(外智博・現クロスポイント大泉会長)がいて、すぐバレちゃったんです(苦笑)。ある時、会長に呼び出されて『お前、何か隠してることあるだろ?』と言われて『すみません、実は小比類巻道場にいました』って正直に全部話しました(苦笑)」
晴れて「経験者」としてクロスポイント吉祥寺のプロ練に参加し、アマチュア大会に出場するようになったが、意外にも当初はまったく勝てなかった。
山口会長はこう振り返る。
「宙樹はアマチュア大会で連戦連敗だったんですよ。とにかく手を出せなくて消極的な試合ばかりで、セコンドについた僕に怒られ、高橋(ナオト)さんには『アマで勝てないなんて、才能ないから辞めた方がいいよ』と言われてました(苦笑)。
ただ僕は怒りながらも『キックは諦めないで最後まで続ける人間が勝つから続けなさい』とは話してましたね。いいものを持ってるのに、試合になると考えすぎて手が出なくて負ける。手が出るようになればバンバン勝てるようになるなと思ってたので。そうこうするうちに、試合で自分から手が出せるようになって、トーナメントに優勝して大会MVPを貰ったりして開花しましたね」
山口会長と高橋さんのおかげで、『試合の方が楽だな』と思えるんです。
葵選手も全然問題ないですよー。
20歳でプロデビューして現在まで10連勝。そのうちKO勝ちが7つあり「REBELSきっての倒し屋」に成長中だ。
「倒せるようになったのは、山口会長と高橋さんのおかげなんです」と鈴木。
「アマチュアの時、セコンドに付いていた会長が試合の途中でいなくなっちゃったことがあるんです。試合が終わって、一度会長のいないところにサッと逃げて(苦笑)心の準備をしてから『今日はすいませんでした!』と謝ったら『お前の試合を見に来たのに、何やってんだ!』と怒られて、泣きながら帰りましたね(苦笑)。今でも会長がセコンドにいるとすごく緊張感があって『行けよ!』と言われると、バンと思い切りいけて、倒せるんです。
この前の試合(4月20日、REBELS.60)も、1、2ラウンドはセコンドのヒデさん(炎出丸)と弟(千裕)の指示を聞いて戦ってたんですけど、3ラウンドが始まる前に会長が来て『行かないとダメだよ』と静かな口調で言われて。そこでスイッチがバン、と入って倒せました(笑)。もっと早いラウンドに来て貰えたら3ラウンドまで掛からなかったと思うんですけど……(笑)。
本当に会長に言われると、バン、とスイッチが入るんです。怒られたくないですから(苦笑)」
一撃で倒せるパンチは、現役時代「逆転の貴公子」として一時代を築いた高橋ナオトトレーナーに学んだ。
「高橋さんには週4、5ぐらい見て貰ってます。クロスポイント以外でもボクシングジムに連れていって貰って、福生の基地に勤務してるアメリカの人たちとスパーリングしてます。みんな体が大きくて、瞬発力とパワーがすごい人たちなので、スパーリングをしておくと試合ですごく楽なんです。
自分、体は頑丈だと思います。『骨が硬い』とよく言われますし、拳も大きいんですよねー(笑)。昔からずっとパンチを練習してるわけじゃないんですけど、パンチ力を褒めて貰えるのも日本人にはないパワーのおかげなのかな、って。
クロスポントだとマススパー(軽めに当てるスパーリング)が中心で、あんまりガチスパーをやらないんですよね。自分は小比類巻道場で『ガチスパーしかやらない』っていう練習でしたし、クレストとかK-1ジムはみんな『倒す練習』ですよね。マスだと気を使っちゃうので、自分は気を使わず、思いっきり殴れるガチスパーの方が面白いです。ボクシングジムでは笑いながら思いっきり殴ってますし(笑)、普段はマススパーでボコボコにされているんですけど、ガチスパーならクロスポイントの先輩たちにも負けるつもりはないですし。ただ、あんまりガチスパーはやって貰えないんです(苦笑)」
試合で倒しまくってきた鈴木のパンチについて、山口会長はこう評する。
「拳が硬くて、パンチが本当によく伸びるんです。あの硬さと伸びは日本人にない、宙樹の身体的な特徴でしょうね。それプラス、格闘技オタクで研究熱心です。空いた時間はずっとYouTubeで試合を見て、技を研究してます。宙樹には、かつての山本元気君やラモン・デッカーみたいな、見てる人を魅了する『倒し屋』になってほしいと期待してます」
山口会長の期待は、今回のメインイベント抜擢にも現れているが、当の本人は「メインイベントでタイトルマッチ」に特に気負う様子もない。
「メインも、タイトルマッチも、ホントに嬉しいです。会長には、会長の誕生日会で『日菜太を差し置いてメインだから頑張れ』ってサラッと言われました(笑)。チャンスですし、ずっと欲しかったREBELSのベルトなんで。
遠慮しないで言っていいんですか? 対戦相手の葵選手の試合を見たんですけど『全然上手くないな。これでチャンピオンなんだ』と思いましたし、自分の中ではラッキー、ぐらいに思ってます。
葵選手は2冠王ですけど、自分は普段、8冠王のT-98(タクヤ)さんと練習してますし、強い先輩たちとバンバンやってるんで。全然、何ともないです」
鈴木にとっては、最大のライバル「弟・千裕」の存在も大いに刺激になっている。千裕は、昨年のパンクラス・ネオブラッドトーナメント・フライ級で優勝。5月26日のシュートボクシング「YOUNG CEASER CUP CENTRAL」(愛知・ホテルプラザ勝川)で立ち技デビュー(63キロ契約)が決まっている。
山口会長は、宙樹、千裕の「スズキブラザーズ」がREBELSを変える存在になってほしい、と期待を寄せる。
「千裕も、日本人離れした体格とパンチ力の持ち主で、宙樹より血の気が多いタイプですよ。今回からキックに専念させるので、二人の倒し屋『鈴木兄弟』がREBELSを大いに盛り上げてくれるんじゃないですかね。
宙樹にとって、今回は初めて自分より遥かにキャリアがあり、格上の葵選手との試合です。彼にとって凄くいい経験になると思いますね。もしかしたら上手くいなされてしまう可能性だってあります。ここをクリア出来るか否か、注目して見てます」
鈴木は言う。
「自分は弟が強くなったのが嫌でMMAからキックに移ったのに、また弟がキックに来て強くなっちゃったら、次はどこに行けばいいんですかね?(笑)
でも、自分は弟に負けるつもりはないですし、まず葵選手を倒して、ずっと欲しかったREBELSのベルトを巻きます。そうしたら今はいろんな団体があるんで、自分は会長が『行け』というリングに乗り込んで、その団体のチャンピオンをバンバン倒していきたいです。自分はずっと会長に付いていきたいと思ってるんで。
自分の希望としては、次はREBELSのタイトルマッチなんで難しいかもしれないですけど、最初から会長にセコンドにいていただけたらなー、と。会長がセコンドにいると気持ちが全然違います。やっぱり信頼してる方なんで、会長の指示ならすんなり入って来るんです。KHAOS(現K-1 KHAOS FIGHT)の時も、会長の指示通りに攻めたら1ラウンドでポンと倒せたんで。
前回の試合前も週4ぐらいでスパーリングしたんで、試合になると『楽だな』と思えたんです。自分は打たれずに殴るんでダメージもないですし(笑)、ボクシングジムとクロスポイントでどんどんスパーリングをして、パンチを磨いて、メインでしっかりと倒してベルトを巻きます。応援、よろしくお願いします!」