栗秋祥梧インタビュー
インタビュー
公開日:2019/9/30
取材・撮影 茂田浩司「他団体に出たくないので、僕を見たいならREBELSに来てください。
2、3年後、東京ドームのリング上で女優にプロポーズします(笑)」
「REBELS愛」の原点。
「九州時代に救ってくれた山口会長は僕の中で“絶対”」
9月21日(土)、東京・吉祥寺のクロスポイント吉祥寺で、REBELSとKNOCKOUTの合同公開練習がおこなわれた。
栗秋祥梧は「美女キックボクサー」ぱんちゃん璃奈(10月4日(金)「KNOCKOUT×REBELS」でJ-girls王者MIREYと対戦)とのスパーリングを披露。時折、得意の左ボディを強打する素振りを見せて、ぱんちゃんを驚かせ、見守っていたギャラリーをわかせた後、栗秋はマイクを持ってこうコメントした。
「今大会もそうですけど、これから先もしっかりとREBELSを盛り上げて、REBELSのエースとして他団体に負けないように頑張っていきたいです。REBELSを先に東京ドームへ、日菜太さんに負けないように追い抜いて、しっかりと結果を残していきます」
初めて栗秋のコメントを聞いた人は、今年8月「K.O CLIMAX2019」出場の際に「いい試合をして、来年の新日本プロレス・東京ドーム大会に出場したい」とぶち上げ、賛否両論の議論を巻き起こした日菜太(クロスポイント吉祥寺)を念頭に、親しみを込めた「日菜太越え宣言」と受け取ったかもしれない。
しかし、栗秋は今年に入ってから「REBELSを世界に持っていきたい」「REBELSが東京ドームでできるぐらいデカくしたい」と事あるごとに言い続けているのだ。
今も、栗秋のSNSには「他団体での試合を見たい」という声が多く寄せられている。
「そういう声はありがたいし、普通にすごく嬉しいです。でも、僕は山口会長(*山口元気REBELS代表兼KNOCKOUTプロデューサー。クロスポイント吉祥寺の会長でもある)の思いを僕なりに背負ってるつもりなんで。僕がやるべきことは『僕が見たかったらREBELSに来てください』と、たくさんの人を集めてREBELSを盛り上げていくことかな、って」
かねてから不満に思っていることがある。
「選手は一人一人に思いはあると思うんですけど、僕はREBELSを踏み台にして他団体に出て、メジャーになると『自分だけで上がってきた』みたいな顔をしてる人がすごい嫌なんですよ。
どんなにメジャーになっても自分の主戦場を忘れない選手もいるじゃないですか。(那須川)天心選手はRISEに帰ってしっかり盛り上げているし」
栗秋の主戦場はREBELS。この思いはブレない。
「僕は、九州時代に救ってくれたREBELSを盛り上げたいんです。正直言うと、KNOCKOUTにも出たくないです。しっかりREBELSを上げてからならば、というのはありますけど……」
まだ九州・大分にいる頃、活躍の場を求めて栗秋はREBELSに売り込みのメールを送った。自らを「和製センチャイです」とムエタイ伝説のテクニシャンの名前を出して。その積極的な姿勢を山口会長は気に入り、REBELS出場が決まった。
「だけど、僕のREBELS出場が発表されたら、悪い意味で反響があったそうなんです。僕を嫌う人は『なんで大きな舞台に栗秋を出すんだ』って。でも、会長は『そんなのは関係ないよ』って僕を出してくれたんです」
2016年7月10日、ディファ有明で開催された「REBELS.45」で、栗秋は当時のリングネーム「Phoenixx祥梧」としてREBELS初参戦を果たした。
「僕は『ここしかない』と思ったし、一緒に九州で頑張ってきたお兄ちゃんにも『お前はREBELSで戦っていけ』と言われて、それで九州で獲ったベルトはすべて返上したんです。
去年、KNOCKOUTに出ることになって(5月と9月の大阪大会に出場)、会長に『大会が終わったら東京に行きます』と伝えました。それまで会長と顔を合わせたのは、僕が東京に試合しに来た時の2、3回でしたけど全然不安はなかったです」
栗秋が「REBELSで戦っていく」と決めた試合がある。
「一番衝撃だったのが、梅野源治選手とヨードレックペットの試合(REBELS.46で開催されたラジャダムナンスタジアム認定タイトルマッチ)です。僕も同じ大会に出てて、すごい刺激を貰ったんですよ。九州でムエタイベースでやってましたけど、九州ではあり得ないし、この日本でヨードレックペットに勝ってラジャのベルトを巻いた梅野選手に憧れました。山口会長から『梅野選手は18歳でキックを始めて、5、6年でムエタイのトップクラスと戦うようになった』と聞いて『夢があるなー』と思って」
端正な顔立ちをクシャっと崩して、栗秋はこう付け加えた。
「メールで売り込んだ時から思ってましたけど、会長は『変わった人』が好きなんじゃないかな、って思うんです(笑)。クロスポイント吉祥寺に移籍してきた選手でいうと、日菜太さんがそうだし、今は僕と(鈴木)宙樹さんで(笑)」
栗秋はいつも厳しい相手とマッチメイクされてきた。
「『楽な相手だ』と思うと練習しなくなるから(笑)」(山口会長)
山口会長の、栗秋に対するマッチメイクには一貫した方針がある。
「栗秋にはいつも『これは厳しいかな?』という相手を当てるようにしています。相手を見て『これは楽に勝てる』と思うと絶対に練習で手を抜くから(笑)」
そのことは、栗秋も当然分かっている。
「REBELSに初めて出して貰った時が沖縄のTENKAICHIのチャンピオン。それからずっとチャンピオンとやらせて貰ってます。特に東京に来てからはどんどん相手のレベルが上がってて(苦笑)」
上京後、REBELS王者の古谷野一樹と八神剣太を倒し、KING強介とは激しい打ち合いを演じて、延長で判定負けを喫したものの、栗秋の強打でKING強介は怪我を負って次戦を欠場した。
そして迎えた6月の「REBELS.61」。ジュニア時代に24冠を達成した19歳の若き怪物、安本晴翔(橋本道場)とのREBELS-MUAYTHAIフェザー級王座決定戦。栗秋にとって上京後、初のタイトル獲得のチャンスだったが、多彩なテクニックを駆使して試合を支配する安本の前に、栗秋の強打はほぼ完封された。
唯一の見せ場は3ラウンド。栗秋がヒジ打ちで安本の目尻を切り裂き、一瞬、動揺した隙に必殺の左フックを打ち込むことに成功。
さすがの安本もグラついたが、直後にドクターチェックが入り、試合再開後はなおも倒しに掛かる栗秋に対して、平常心を取り戻した安本も反撃。4ラウンド以降は、栗秋のスタミナが切れて、安本が危なげなく勝利をおさめて栗秋はベルトを逃した。
「3ラウンドは『いける』と思ったんですけど、あそこでストップが掛からなくて自分自身が折れました(苦笑)。ヒジで切って、ドクターが見てる時に『試合を止めてくれ!』と思ってて、再開した時はパンチで仕掛けたのに倒せなくて。インターバルでもセコンドの声が頭に入らなかったです。頭の中はずっと『オレのパンチで倒れねえし、止められなかったし』って。そこで結構、自信を無くしたというか、4、5ラウンドは気持ちが折れてました(苦笑)」
安本戦から学んだことは多かった。
「倒す力は確実に付いてきてるんですけど『継続して手数を出していくこと』から逃げてたな、って。やっぱり疲れてしまうんで、そこから逃げてしまってたことを安本選手と戦って改めて思いました。
安本選手はすごい戦いにくかったです。僕のパンチの距離でハイキックを出してきたり、モーションが小さいんで蹴り技のタイミングも読みにくくて。でもそこでビビッた自分の負けだなって思います」
移籍後、初の完敗だったが「栗秋には厳しい相手」という山口会長の方針は変わらない。8月の「REBELS.62」では、ムエタイの元ルンピニー9位、ジョー・テッペンジムと対戦。現在は那須川天心のトレーナーとしてミットを持っているが、まだ25歳と若く、今年1月までタイで試合をしていたほぼ現役の選手。しかも、試合はムエタイ選手が得意とする「ヒジ打ち、首相撲ありの」REBELS-MUAYTHAIルールになった。
ところが、栗秋は「それどころではない状態」に陥っていた。
「試合の2週間前からまったく練習ができなかったです。右足に肉離れを起こして、左でずっと練習してたら左の足首のスジを痛めて。日菜太さんは経験があるから『動かさない方がいいよ』って言ってくれてて。仕方なく上半身だけを鍛えてたら、日菜太さんに『お前の気持ちを見せろよ。そういう試合をしろよ』って。その言葉で救われました」
ジョー戦が「ひじありのREBELS-MUAYTHAIルール」だと気づいたのは試合の3日前。
「ずっと、ヒジなしの『REBELSルール』だと思ってて、何気なく対戦表を見たら『REBELS-MUAYTHAIルール』って(苦笑)。タイ人相手にヒジありか、と思ったんですけど『逆にチャンスだな』って。足は使えないし、かえっていいチャンスだってプラスに考えて。
試合まで1発も蹴れなくて、試合で1発蹴ってみたらジョー選手にスウェーでかわされて、軸足の左足のスジが『ピキッ』って。それで痛くて蹴れなくなったんで『もうパンチしかない』って。開き直ってパンチを打ったら倒れてくれたんです(笑)」
ジョーからダウンを奪った渾身の左ボディ。会場を震撼させた強烈な一撃は、栗秋がこの試合のために用意した「秘策」だった。
「あのボディの打ち方は、トレーナーさんに教えて貰ったんです。足の使い方、力の抜き方、当たる瞬間のインパクトの残し方を細かく教わって、それだけをずっと練習してました」
ヒジ打ちのカウンターが世界一上手いムエタイ選手相手に、踏み込んでボディを狙うことはリスクが高い。だが怪我をして蹴りが出せない以上、パンチで勝負する以外にない。
加えて、栗秋はひそかにこの試合を「背水の陣」で臨んでいた。
「安本選手に負けて、ここでジョー選手にも負けて連敗したら、REBELSに出す顔がないです。連敗して第1、第2試合で戦ってる同じフェザー級の人と試合するぐらいなら辞めよう、って。僕は他団体に行くつもりはないんで、腹を括って九州に帰ろう、と」
怪我していて満足に蹴れないことに加えて「連敗したら辞める」と決めただけに、強いプレッシャーが栗秋を襲った。が、その背中を支え、力強く前に押したのは日菜太の言葉だった。
「入場の前はちょっと怖くて、日菜太さんに『怖いです』と言ったら『1R目にパンチを思い切り振って、自分の気持ちを見せてこい!』って。それでスイッチが入りましたね。あと『ここで負けたら、お前、ただのポエマーだからな』とも言われて(苦笑)」
栗秋は、1ラウンドに強烈なボディでダウンを奪った。ジョーは2ラウンドに形勢逆転を狙い、首相撲で勝負を仕掛けてきたが、栗秋のタテヒジがジョーの目尻を切り裂いてドクターストップのTKO勝利。引退と「ただのポエマー」に成り下がる危機を回避した。
「インターバルで会長に『相手はお前のパンチ力が分かったから、2ラウンドから徹底して組んでヒザで来るぞ』と言われて、隣でうなずいてたウーさんが『そこにタテヒジだよ』って。その通りになりました(笑)」
ミケール戦は「勝てば大きい」
狙うはISKAの世界ベルト。そしてREBELSを大きくして……。
試練は続く。10月6日(日)の「REBELS.63」では、ISKAスペイン王者、ミケール・フェルナンデスと対戦する。
フェルナンデスは、8月18日の大田区総合体育館「K.O CLIMAX」初代スーパーバンタム級王座決定トーナメントに参戦。1回戦で小笠原瑛作(クロスポイント吉祥寺)に敗れたものの、持ち前のタフネスと強打で小笠原を苦しめた。
「当日は会場にいましたよ。お手伝いで朝6時からリング作りにいって、セコンドして。大きな舞台なんで正直『またここでやりたいなー』って。
フェルナンデス選手はKO率が高くて(15戦13勝12KO)、瑛作さんのパンチをボコボコに食らってるのに倒れなかった。強い相手ですけど、会長はいつも僕の対戦相手はガツガツ来る相手を選んでくれるんで『また打ち合いをすることが望まれてるんだろうな』って思ってます。
今回は勝てばデカいです。前に、スペインでISKAのタイトルマッチをして負けたんですけど、その相手にフェルナンデス選手は勝ってるんです。瑛作さんもISKAの世界タイトルを持ってるし、僕も狙ってるんで、フェルナンデス選手に勝って次はISKAの世界タイトルマッチをやりたいです」
今、栗秋は安本戦で露呈したスタミナ不足を克服すべく、山口会長が指導する「ジュニア強化クラス」で小中学生のジュニア選手たちにまじってスタミナ強化をはかっている。
「朝は弱いんで走ってないんですけど(笑)、プロ練が終わると走って、少し休んでから会長のジュニア強化クラスに出てます。基礎体力とか継続する練習で『ジュニアでこんなにキツい練習?』って思うぐらい、相当キツいです。最初は行きたくないって思ったんですけど、基礎から叩き直されて『これって自分に足りないところだな』って。
今回の試合でスタミナをつけてきた成果を出したいですし、それが出来れば安本選手と再戦しても問題なしに勝てると思うんで」
栗秋の思いは1つ。タフな相手を倒しまくって、エースとしてREBELSを大きくしていくこと。
「この2、3年でREBELSを大きく変えていきたいです。会長は、KNOCKOUTのプロデューサーになって、KNOCKOUTを盛り上げていくと思うんで、僕はREBELSの土台をもっともっと上げたいです。REBELS自体が上がったら、KNOCKOUTはさらに高い舞台になると思うんで。
ただし、僕の中で会長は『絶対』なんで、会長が『あの舞台に出ろ』といえばそこに出ていって結果を出すだけです。だけど、僕が一番やりたいことはREBELSをどんどん上げていって、REBELSで東京ドームをやりたい。それで、リング上でプロポーズしたいですね、女優に(笑)」